ノル

シャン・チー/テン・リングスの伝説のノルのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

初のアジア系ヒーローを主人公とした本作。期待を大きく上回ってくれた。正直、マーベルシリーズの中でも単体としてはかなり好きな1本になってしまった。というか、実は1番好みだったりするかもしれない。

大まかに言えばシャン・チーが自分のルーツを辿り、自分としての在り方を確立する物語。父を恐れ、自分を恐れ、力を恐れ。シャン・チーが逃げついた先は、どこにでもいるホテルマンの何者でもないショーン、という作り上げた自分だった。特別な力を持たないケイティが、友人として隣にいるのが心地よかったのだろうと思う。ケイティの家族にも、仲をあくまでも“友人”と言い張っていたのは、シャン・チーがこの変わらない関係性を望んでいたからというように感じる。

シャン・チーのその力はバスでの戦闘シーンまで身を隠す。父からの追手を撃退するこのシーン、バチバチの肉弾戦はマーベルシリーズでも物珍しい。特に最近は特殊能力を使うキャラクターが多かったため、カンフーを取り入れた素早いアクションスタイルは、リズミカルで見ていてとても気持ちが良かったし、ケイティの序盤での運転技術の伏線もしっかりと活かした迫力あるシーンに仕上がっていた。ケイティの「何者?」という問いかけに、どこか苦い顔をしたシャン・チーは、半ば仕方なくではあるが、徐々に自分の生い立ちと向き合わざるを得なくなる。

ところでこのケイティの存在がとても良い。ヒロインらしからぬヒロインで、シャン・チーとは恋仲というよりは親友と言った方が的確な関係性。そんなサバサバとした彼女は一般人目線ですっとぼけながらもストーリーに食らいついていってくれるので、視聴者が感情移入する手助けをしてくれるキャラクターであった。しかし、その一般人で終わらないのが彼女のすごいところで、シャン・チー的には誤算であった部分であろう。シャン・チーにすごい力があったと分かっても、それに怯えて見捨てることはない。決して1人にさせない。このケイティの強さは、妹を置き去りにしてしまったシャン・チーとは対照的に描かれていた。

アイアンマン3で偽マンダリンを演じたトレヴァーの再登場には驚き。前々から憎めないキャラクターではあったものの、今回不思議な生物モーリスをおともにしたことで、物語上欠かせない人物となっていた。彼がいたらたどり着けなかったのだし。

モーリスの案内で到着した母の故郷、竹林に隠された村ター・ロー。神話的で幻想的。信じられないほど美しい自然と、不思議な生物たち。一気に別世界に来てしまった、壮大なファンタジー作品のようではあったが、父と母の出会いであったり、モーリスの存在だったり、どことなく“異世界感”という要素を散りばめていたからか、思っていたより違和感を感じなかった。寧ろ、その異世界感に大いに惹かれてしまった。鮮やかな木々や建造物の彩色や、中華テイストを織り交ぜた壮大なBGMやはストーリーにとてもマッチしていて、サントラで聞きたくなってしまう。

魔物に唆された父、ウェン・ウーの暴走を止めるべく戦うシャン・チー。親子でのテン・リングスの戦闘シーンは素晴らしかった。テン・リングスは色々な使い方ができるので、アクションの幅もかなり広がる。体術も合わさり、今までになかったごりごりの迫力ある戦闘が見られるのかと思うとわくわくしてしまう。

ウェン・ウーもヴィランといっていいものなのかは疑問である。殺し屋稼業はもちろん悪であるとは思うが、今回の件では彼はただ亡くなった妻を取り戻したい一心であり、彼もまた魔物に騙された被害者であるからだ。親子の間に大きな溝はあったものの、ウェン・ウーの家族を愛する気持ちは本物であったように思うだけに、その狂ってしまった人生が切なく感じた。

持ち主を狂わせてしまったテン・リングス。受け継いだシャン・チーは、その力に影響を受けてしまうことはないのだろうか。まだまだ謎だらけのテン・リングスの隠された秘密は、ここから様々なマーベルキャラクターたちと解明していくことになるのだろう。ウォンやブルース、キャプテン・マーベルの登場で、シャン・チーがヒーローとして活躍する第一歩を踏み出すことになるという確かな予感は、“もう後戻りできないぞ”という忠告どおり、我々も今後続々誕生する新たなマーベルヒーローたちに心構えをしなくては、と感じさせるものがあったように感じた。
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