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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのKEiGOのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

死。それは、やがて訪れるものかもしれないし、突然降りかかるものかもしれない。

チャドウィック・ボーズマンとの早すぎる別れから2年。「本当にブラックパンサーを作れるのか?」と一時は危ぶまれた続編がついに公開です。僕はこの作品にマーベルの成長を見ました。本当、懐が広くなったよ…。昔のマーベルだったらシュリはもっと"普通"に、もっと早く、気持ちに踏ん切りをつけたでしょう。だが、そうじゃなかった。最後の最後まで彼女は兄の死と、母の死と向き合うことができず、世界を燃やし尽くさんばかりの怒りと悲しみの渦に飲まれていました。シュリがブラックパンサーに"なった"ときも、エムバクに諫められても、タロカンとの戦いの最中も、ネイモアに勝利を収めても、彼女は向かい合うことができなかった。少し時間を置いて、自分の中に生きるティ・チャラを感じたとき、初めて彼女は兄の死と向き合うことができました。僕は兄の死を乗り越えたとは思っていません。だってそれはそんなに一朝一夕で乗り越えられるものじゃないから。映画一本、161分という長尺を使って辿り着いた地点がやっと「向き合う」ことだと思うんです。その描き方のやさしいことやさしいこと。そっと寄り添うだけのやさしさに涙すると共に、マーベルの進化を感じました。余談ですが、私も妹がいる兄。そんな個人的共通点から、兄ティ・チャラがどんなに悔しい想いで世を去ったかと思うと、また涙が込み上げてしまって、、ダメですね、刺さります…笑

話は変わって、女王ラモンダ役アンジェラ・バセットの芝居も素晴らしかったですね。国を守る女王としての威厳と、母親としての不安と焦燥。この表現が本当に巧み、というか本物そのもので。間違いなく映画界に残る"母"の一人になるでしょう。

一方で、MCU全体としてはやはりフェーズ4はフェーズ3の尾をかなり長く引いたと言えるでしょう。それほどまでにトニーの死、スティーブの離脱、そしてチャドウィックの死が大きかった。フェーズ4は、フェーズ3のように作品の境界を越えてクロスオーバーするより、キャラクターの内へ内へと潜っていく作品が多かったように感じます。『スパイダーマン: NWH』や『ドクター・ストレンジ/MoM』は一見クロスオーバーのように感じますが、これらの作品も本質的にはピーターやスティーヴンの内面に迫るものでした。『ソー: L&T』も同様ですね。ここら辺、DCの十八番をMARVELが攫ったとも言えるかもしれません。とはいえやっぱりMCUは『エンドゲーム』に向かって収束していくあの高揚感が持ち味。そうしたエンタメの側面はフェーズ5からギアを上げてくるはず!楽しみですね~。あ、ロスのランニングシーンで"Can't Stop"が流れた時はテンション爆上げでした笑

「世界を焼き尽くす」復讐の炎から、礼服をくべて死者を弔う”火”の比喩表現もまたグッとくるものがありました。そこでさらに涙腺に追い打ちをかけるのがRiahnnaの"Lift Me Up"。決して英語が得意じゃない自分でも入ってきたシンプルな詩。そこから伝わるメッセージが沁みました…。大切な人を失いすぎるには、彼女はまだあまりに若すぎるよ。そう思うと、より一層この歌が入ってきました。

"自分の人生の中で失った全ての人からの温かい抱擁を描きたいと思いました。今、彼らに向かって歌い、どれだけ会いたいかを表現することができたら、どんな感じだろうと想像してみたんです。[1]"

大切な人を亡くした時、人は何を思うのだろう。幸い僕はまだその経験がありません。そんな自分でさえ、劇場から帰る電車でこの曲を聴いて思わず泣いてしまいました。決して百点満点の映画ではないと思います。しかし、物語と音楽。このふたつの融合において非常に優れた作品だと思います。あなたにとって大切な誰かを思い浮かべて、この曲を聴いてほしい。そのとききっと、あなたの物語とこの曲がひとつになるはずです。
大切な人を亡くした時、僕はきっとこの作品に還ってくる。


参照
[1]"リアーナ、6年ぶり新曲「Lift Me Up」リリース 『ブラックパンサー』新作サントラのリードシングル", Oct 28, 2022, ORICON MUSIC, https://www.oricon.co.jp/news/2254935/full/
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