サンヨンイチ

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのサンヨンイチのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

チャドウィック·ボーズマンの訃報が知れた時のことは
今でもよく覚えている。
特段ブラックパンサーが好きというわけでもなかったが
MCUファンは大きな喪失感を共有したことだろう。

本編前後に、
ストーリーを阻害しない程度で最大の
感謝と哀悼を捧げる猶予を与えてくれる本作には
それだけでリスペクトに値する素晴らしい作品だった。
ヒーロー映画に対する
ネガティブな批評も最近では珍しくなくなったが、
役者の死をこうして描けるのは、
ヒーロー映画でしかあり得なかったように思う。
その点で、
MCUの存在意義はより強固なものになったと思うし、
これからも面白い作品を作り続けてほしいと願うばかりである。


一方で、
本作のワカンダという国が導きだした答えには疑問が残る。
ひとつは、
ヴィブラニウムの扱い。
前作で鎖国を解除したにも拘らず
序盤から他国との共有を拒んでいる。
他国の露悪さに触れ、
それから守ることのできる守護者がいなくなったことによる
閉鎖的態勢には理解できるが
結局はティチャラだけの思想だったのかと
ショックを受ける。
ラストではアイアンハートのスーツすら
置いていくよう厳戒令を敷く始末。
サラッと流されていたが
資源、技術の独占状態がより加速したような印象を受けた。
ティチャラの死によって1作目よりも
世界との友好の可能性が閉ざされたように感じる。

また、過去の過ちを認め
伝統と調和しつつ、悔い改めていく前作に対し、
本作では復讐に囚われ続ける主にシュリの姿が描かれる。
葛藤というほど揺れ動くシーンはなく、
復讐に目が曇った状態が続く。

ワカンダにせよシュリにせよ、
高貴さが薄れ、未熟な状態に
一度リセットされたと考えるのが正しいかもしれない。


ネイモアの存在は大きく、
ヴィランとして描かれているが
これまでのMCUドラマの内実を見てきたファンであれば
当然感情移入したくなるキャラクター及びスタンスである。
シビルウォーにも通ずる
正義同士のぶつかり合いだが、
導く者がいなくなったワカンダに対し、
ネイモアの主張と歩み寄りのほうが主人公然としている。

ラストの海上バトルは
やはりワカンダ特有の総力戦の面白さが光る。
しかし、主将が場所を移してからというもの、
全体と主将戦で映像がスイッチする展開になるが
画角がコロコロ変わる。光彩度も変わるのでチカチカするし
ラストスパートにかけて盛り上がりたいところが
今一つ伸びない。

最悪のワカンダフォーエバーにしかり、
飲み込めないことが多すぎる終盤戦は
かくして、武力制圧により“平和的”解決を向かえるわけである。
これがライアン·クーグラーなのか?
次回作や
のちのフェーズに向けた布石と考えるのが妥当かもしれない。
思えばフェーズ4のなかで
物語が帰結したのは『スパイダーマンNWH』くらいだろう。
ここから
インフィニティウォーのような盛り上がりがあるのかどうか、
それまで待てるかどうかという
篩に掛けられている感もしないでもないが
振り落とされないようにしたい。