DaiOnojima

喜劇 愛妻物語のDaiOnojimaのレビュー・感想・評価

喜劇 愛妻物語(2020年製作の映画)
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 売れない脚本家(濱田岳)とその妻(水川あさみ)とその幼い娘が主人公のホームドラマ。原作・脚本も手がけた足立監督の自伝的な作品で、主人公の夫婦のモデルは監督ご夫妻らしい。「百円の恋」の脚本はこの人ですね。

 全編ずーーっと夫婦喧嘩をやってるような映画で、水川のここまで言うかという口汚い罵声が連続的に濱田に浴びせかけられ、ほとんど何も言い返せない夫はただ口ごもり妻の機嫌をとろうとするだけ……というシーンがずーっと繰り返される。だから正確に言うと夫婦喧嘩ではなく、妻が夫をほぼ一方的に罵倒する映画である。なぜ夫が言い返さないかというと、夫の性格もあるが、罵倒されても仕方ないほどのダメ男だから。たとえば夫は、しょっちゅうイライラして怒っている妻の機嫌をなんとかとってセックスに持ち込もうとするのだが、その理由が「愛人を作るほどの余裕もなく風俗に行く金もないから」だったりするからどうしようもない。なのでどんなに罵倒されても同情する気になれず、それどころかだんだん見ている自分自身が罵倒されているような気がしてきて落ち込んでくる。鑑賞している自分のダメ男ぶりが劇中の水川嬢の罵倒で浮き彫りにされるといいますか。会話の内容や描かれるエピソードは、家庭持ちならあるあるすぎる感じだが、とにかく水川の罵倒がすごすぎる。ほとんどモラハラというか、世の中、こんなにいっぱい悪口のボキャブラリーってあるんだと感心するほど。それをしょっちゅうそばで聞かされている子供に悪い影響がありそうだが、劇中の娘は我関せずな感じでどこまでも無邪気に振る舞うので救われる。もちろん罵倒シーンだけでなく、2人がうまく行っていたころの回想シーンや、妻は今でも夫の才能を信じていて、それが開花するのを待っている(だからこそ現在のテイタラクが我慢できず罵倒)、というのも描かれ、ホロリとさせるところもあるけど。

 そんなわけで「喜劇 愛妻物語」というタイトルに反して笑える場面がほとんどない(少なくとも私には)のだが、基本的には軽いタッチのコメディだし、最後まで見てしまうのは脚本と演出が抜群に冴えていて面白く、そして主演の2人の好演があるからだろう。最後のタイトルロールまで見ると「愛妻物語」という意味がわかる。あのラストがないと、ほんと救いがない感じだった。ネットの評判を見ると「爆笑の連続だった」という感想もいっぱいあるので、人によって見方は違うでしょう。これを素直に爆笑できる人がうらやましいです。

 濱田と水川はこれ以上ない適役。水川はこれでキネ旬の主演女優賞をとっている。(2021/2/8記)
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