すずき

アラビアンナイト 三千年の願いのすずきのレビュー・感想・評価

4.1
アリシア博士は世界各国の神話や昔話などの物語を研究している著名な学者。
彼女は「物語は現在ではその役割を科学に取って代わられている」という論を展開していた。
孤独な人生ではあったが、彼女はそれを好み、現状に満足していた。
ある日、イスタンブールで買った古い瓶を開けた所、中に閉じ込められていた魔人(ジン)が現れる。
「3つの願い」を叶える事が使命と考えるジン。
だがアリシアは何も願い事をせず、ジンが瓶に閉じ込められる経緯に興味を持つ。
彼が経験した、「3つの物語」を聞いた末にアリシアが望む願いとは…

ジョージ・ミラー監督の、不朽の名作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」以来7年ぶりの新作。
「マッドマックス」と「ベイブ」「ハッピーフィート」、相反する作風を使い分けるミラー監督。
本作は幻想と恋愛を描いた大人の童話で、彼の引き出しの多さには驚嘆する。
そしてキャストも豪華で、魔人を演じるイドリス・エルバもセクシーだけど、主人公アリシアを演じるティルダ様はやっぱり素敵です。

ストーリーの構成が少し変則的。
アリシアとジン、2人の関係を描いた映画なんだけど、上映時間の半分以上がジンの語る身の上話の回想シーン。
しかもジンがほとんど関与しない話もあり、原典の「千一夜物語」と同じような、劇中劇・話中話の構成を取っている。

彼の語る回想シーンでは、登場キャラクター達は言葉をほとんど話さず、ジンのナレーションで状況を説明する。
その間、アリシアはホテルの一室で話を聞き続ける地味で現実的な映像だけど、回想シーンでは豪華絢爛なペルシャファンタジーな映像。
ジンが3つの話を語る前には、その話のタイトルまで出る。
それらの演出でもって、それが「物語」である事を強調しながら、映画の大半を回想シーンに費やすのは不思議な構成のような気がした。
しかし最後まで見ると、それこそが重要な、映画のテーマに直結する要素だったのだと気付いた。

そもそもこの映画のテーマを考えると、ひとつは他の恋愛映画と同じ様に、「誰かを理解し愛する事」だろう。
しかし、アリシアが愛したジンは、果たして本当に存在するのだろうか。
彼は序盤のアリシアの回想シーンで描かれたような、「空想の恋人」ではないだろうか。
その答えは最後まで曖昧だけど、そう考えると、この映画にもう一つのテーマが浮かび上がってくる。
それは「『物語』のもつ意味とその力」だ。

後半、アリシアを悩ませる差別主義的な隣人を描いた所は、最初は流行りのポリコレ要素を安易に捩じ込んだのかと思った。
しかしその後、アリシアが愚かな隣人にこちらから一歩、歩み寄る描写でアリシアが変わった事を示す。
アリシアはそれまでも決して不幸ではなかったが、「空想の恋人」の物語を通して、自分に足りないモノを知り、優しく余裕のある強さを手に入れたのだ。
ジンとの物語によって、アリシアの人生は更に幸せで輝かしいものになるのだろう…

…と、そんな風に解釈したけれど、私は何もジンはアリシアの妄想!と決めてかかってるワケじゃない。
彼がアリシアの空想でも現実の存在でも、どちらにしてもステキだと思う。

後半の方、ジンが「人間こそが最大の謎だ」みたいな事を言い出して、脳噛ネウロやんけ!って思ったけど、その後も2回くらいネウロやんけ!って思える展開だった…。