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1917 命をかけた伝令のsomaddesignのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
5.0
ネズミ怖い!

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自分だけかもしれないけど、「ゼロ・グラビティ」「バードマン」「サウルの息子」「ウトヤ島7月11日」etc…ワンカット映画を見るときにどうしてもカメラのことが気になってしまう。「この事態を見ている奴は誰なんだ?」と。

特に今作だとロジャー・ディーキンスの美麗な映像美も相まって没入感が高く、思わず自分も伝令に付いて歩いてる気になる。映画の終盤に至っては、すっかり一緒に死地を抜けた気になっているので「一人でよくやった」的な発言があると『俺もいたよ!』という気分になってしまう。急にハシゴ外された気分っていうか、友達だと思ってた相手から知り合い認定された寂しさに近い。や、近くない。

序盤の平和な昼下がりの背景から、徐々に剣呑な戦場の塹壕に背景が変わっていくグラデーションが見事。主人公たちの表情がググッと固くなっていく様が良かったし、その後告げられる指令の重さ&無茶振りに目の前が真っ暗になってる様に共感する。

緊張と緩和のバランスが素晴らしくて、トムとの駄話で場が和むほど、その先の不穏な展開を予測してハラハラしてた。緩和したシーンほど緊張感が高まるの初めての経験かも。見てる間中、歯を食いしばってしまったのか、見終わったら奥歯が痛い。

特に空中戦を遠くに眺めてからの……のシーンは、飛行機が一度も画面から消えることなく向かってくるので臨場感が凄まじい。CGやVFXを駆使してるんだろうけど、生身の役者さんとタイミングを合わせたり、実写との切れ目なく繋ぎ合わせるのスゴイ!

結果的に第92回アカデミー賞では視覚効果賞・撮影賞・録音賞らテクニカルな部門での受賞に留まってしまったが、作品賞・監督賞にWノミネートされただけあってシンプルで力強い語り口はさすがサム・メンデス。そもそも映画としてスゴイ完成度。サスペンスが持続して、一度もダレることなく最後まで走りきる。

トムとスコの凸凹バディ感はローレル&ハーディのようで、仲良く喧嘩する様子が微笑ましい。冒頭で当たり前のように古いパンを分け合う描写で、彼らが無二の戦友・親友であることが伺えるフード描写もいい。(「仲間は同じ釜の飯を食う」の法則)
フード描写といえば、紅茶なしではいられないイギリス兵の話なのに、一度も紅茶を飲むシーンがなかったのが残念。ゴール後した後でもいいから、充実の一杯を楽しんで欲しかった。あのミルクは最後にミルクティーに活きるかと思ってたのに。(成分無調整&無殺菌だから赤ん坊には気をつけて!とも)

コリン・ファースを筆頭に、カンバーバッチやリチャード・マッデン、マーク・ストロングらチョイ役がいちいち豪華! 豪華すぎてノイジーですらある。

あとネズミがデカイ! 渋谷のネズミはもっとデカイ!と思ったけど、あんなに堂々とヒトを怖がらずにいるとキモイより怖い。ノーマンズランドの死屍累々を餌に肥えたネズミなんだろうし、ヒトを怖がることを知らない。無人地帯の地獄絵図っぷりがネズミの図々しさで分かるっていう仕掛け。

劇中語られる「ネズミに耳をかじられた男」の話。日本でもあまりに貧しい幼少期を過ごしたせいで、寝ている間に左耳を噛みちぎられた芸人さんの話を思い出した。奇しくもコンビ名が「メッセンジャー」なのがまた味わい深い。

(余談)
インフルエンザが初めて世界的に流行したのも第一次大戦の頃だったとか。奇しくも新型コロナウィルスや新型インフルエンザが、世界的に猛威を奮ってる中での公開となって、見ている最中隣の人の咳が怖い。映画館て密室だし。


16本目
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