イルーナ

異端の鳥のイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ただでさえ残酷なストーリーに3時間近い上映時間、モノクロ、東欧という馴染みのない地域の作品。
しかも原作は作者の母国で発禁書となり、作者も盗作やゴーストライター疑惑をかけられたりした挙句自殺と、バックグラウンドからして曰く付き。
こうしたヒット作の王道と真逆の作風・背景ながらも結構ヒットしているらしいのが嬉しい。
長尺ながらもテンポがいいから全くダレずに観れたし、おぞましい描写まみれながらも、主演の子にめちゃくちゃ配慮しながら撮ってるな、というのがよく分かる作品でした。

疎開先で保護者の老婆が急死してしまったことから始まる、地獄めぐりの寓話。
色を塗られた鳥は群れに返しても、群れから異端と見なされ殺される……という原題の由来となったエピソード通り、主人公はどこでも差別と迫害を受け続ける。
たまにまともそうな人に拾ってもらえたりもしますが、よく見ると善人と言い切れない部分も多いし、そういう人たちにも残酷な末路が待ち構えている。
舞台は田舎ということもあって、前述の鳥以外にも動物が色々登場しますが、ある動物は人間の犠牲になり、またある動物は人間に牙を剥く。動物もまた、戦時下では被害者であり加害者でもある。
さらに本作では、主人公の純真さが強調されています。
例えば目玉抉りのシーンは、原作では踏み潰されてるけど、映画では持ち主に届けてやっている。
レッフ編の結末も違っていて、映画でレッフは自殺してしまう。主人公は助からないと見るや自殺を手伝い、売り物の鳥を逃す。
そうした優しさが一切通用しない時代と環境なのが、余計に悲しいです。
司祭とガルボス編で、受難を受け続けた少年は初めて殺人を犯し、司祭の葬儀で失敗してキリストになり損ねる。
そして次のラビーナ編では、山羊(悪魔の象徴)との獣姦を目の当たりにし、いよいよ悪落ちが始まる……
(しかし原作で獣姦のエピソードがあるのはエヴァとマカール一家編で、彼らは本作に登場しない。さらにラビーナ編は未亡人の彼女がただ不幸な目に遭うだけ。なぜ改変したんだろう……?)

また、主人公はその肌・目・髪の色から「ユダヤ人やジプシーと見なされた」という設定ですが、実は原作では人種や民族が明言される場面はありません。
むしろいい教育を受けていたらしいことから、見間違えられていたのでは?とも思っていたのですが……
本作では最後の最後でユダヤ人だったことが明らかになります。そして、自分がこんな目に遭うきっかけを作った父を恨むことをやめる。
父もまた、やむを得ない決断をしたということなんですよね……
ラストで一羽の小鳥が飛び立っていくカットが挟まれますが、果たして小鳥は無事に群れに戻れたのでしょうか。
戻れたことを祈りたいです。
イルーナ

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