Col

異端の鳥のColのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.2
モノクロームな映像美と人の善悪を映し出した
映画好きとして出会えて良かった近年希に見る作品。

ホロコーストをモチーフにした作品は数あれどこんなに胸奥深くに突き刺さった作品は最近なかった。

自身オールタイムベストにあたる『シンドラーノリスト』と言う作品もあったが、作品の重厚感は同じくしてここまで美しくも残酷な世界を写しだした作品に高く感銘した。

「冒頭のシーンから心拍数があがる。」
---------------------------------------------------------------
戦争孤児として疎開地として老婆に引取られ生活をする少年。そんな疎開の地でも迫害を受ける少年。そんな環境下でも心の安息としていた老婆が老衰で死亡そのときに生じた火事のワンシーンで始まる。心のより所としていた少年から全てを奪いより孤独な家路へと強制的向かわせる最悪なシーン。火事で起きた火の光を観ながらに闇の中へ尻込むシーンは胸にズシンとのっけから圧力をかけられる。恐らくタルコフスキーに影響されたであろう火事のシーンは美しい中に潜む現実の残酷さ。正にこれから語られていく上でのエピソードの原理原則となる印象深い名シーンだった。映画好きだから色濃く感じるこのシーンに本当に感謝、賛美すらした一瞬だった。

「これは地獄絵巻なのか、それとも現代版神話なのか」
---------------------------------------------------------------
その後家路に向かう少年の旅のなかで出会う人達。それぞれであった人達事に章立てされた構成。ユダヤ人=悪魔の子というレッテルを貼られた中で、迫害されながらもその役割として居場所がよういされている数奇な関係性に驚く。人は自分より下の者、攻撃の対象物としての必要悪を作りだし生かす殺さず自分の自尊心のために少年を生かすという残虐性。見限り方も残酷で用済みにとなればすぐに追い出す。予告シーンにもあるカラスのシーン、肥だめに捨てられるシーンは非常に過激的。他にも数章にわけられる全エピソードで同様の過激なシーンが印象に残る。あまり感情を見せない少年だが、鳥飼いの男がペイントを塗った鳥を放し虐待をうけ死にいたった鳥をみて大泣きする少年のシーンは胸をついた。少年には理解できない、理解したくない思いがそのシーンにはあった。唯々切なくなるばかりだった…

「神に見捨てられ、少年は成長する」
---------------------------------------------------------------
辛いシーンの連続ではある本作だが、少年が食事するシーンも妙に印象に残った。苛烈な生活、境遇の中でもあくまで生きるために行っていること。生きていくことのメッセージと受け取った。子供ながら理解をしているのだと思う。迫害の境遇にあることとは別に、人の役に立つ・誰かの為になることが生きていくことと無意識ながら行っていくある種少年の成長の物語でもあった。ただとあるシーンより少年が大きく様変わるシーンが表現される。神父に雇われ匿われそれでも奪われゆく人格逃げ場のない現実に、宗教は幻想であるとどの大人より気付いてしまった少年は、純粋な少年から、生きるために略奪や殺人をも厭わない人間と変わっていった。間違えた生き方ではあるが、これはある種大人で有り現実を達観した力強さを得た主人公として怒りを覚える観客は少ないだろう。自分を映し鏡としてそこまで聖人とした人はこの現代においてもいるのだろうかと言いたい。

「長いトンネルの果てに見た景色とは」
---------------------------------------------------------------
過酷と苛烈な人生を生きた少年の行き着いた家路には父親が現れる。今までの経験を含め父親を受け入れらず拒絶する主人公。ただ最後に見せた細やかな表現にこの映画を観てきた観客の救いとして主人公の成長を最後に知りラストを迎える。押しつけがましくもなく自然な語り口も全てアーティスティック。辛い3時間にも思えたが本当に観て良かったと感じた作品。あまりオススメしにくいが、観てほしいという矛盾を覚える名作でした。
Col

Col