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異端の鳥のevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【depravity and prejudice】

はぁ…。げっそり。

極めて残酷なのに、悪寒を覚えるような美しさも漂うホラー。
かなりショッキングな映像が続きます。
次の衝撃に耐えねばという心の準備にも気を取られたので、上映時間の長さを感じる余裕がありませんでした。

映画の宣伝も読まず、ポスターのインパクトだけで観ることに。

ホームシックで孤独な少年の放浪記。

彼が誰なのか、時代がいつなのか、場所はどこなのか、劇中全く説明はありませんが、段々飲み込めてきて、最後の最後に、ようやく成り行きが分かりました。
少年と同じ目線で味わうには、事前にあまり情報を入れずに鑑賞して正解だと思いました。

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少年が出会う人々の「名前」がタイトルとなっている短編集のような構成。もちろんひとつ前の出会いは次の出会いに影響する。

最初に登場する叔母Martaには、勝手に一人で出掛けて危ない目に遭っても当然だと叱られる。荒涼とした東欧らしき土地で、髪も瞳も黒く、肌も浅黒い彼は被差別の「ジプシー」かユダヤ人。彼が愛おしそうに撫でる家族写真の服装からユダヤ人なのだろうと推察できる。早く家に帰れるよ、と叔母が慰める。

しかし不幸が重なってしまい、仕方なく一人で、村から村へ、民家から民家へ、彼の「面倒を見る」大人に振り回されながらなんとか生き延びていく。

原題がなぜ “The Painted Bird” なのか。
それがよく分かるエピソードが出てきて、本作の ”the painted bird” は少年のことなのだと途中から分かる。

そもそも少年は最初から異端だったのだろうか。

彼と彼の家族に「付いたペンキ」は、一体誰が塗ったのか。

異質な存在への過剰な恐怖と憎悪そして差別意識は、即座に敵と認識させ、本性を知ろうとすることもなく、無慈悲に存在を攻撃して排除していく。

少年が積極的に話しかけた相手は怪我をした馬だけ。神父にも話したようだけど、会話の様子は出てこない。

行動から察するに、元来彼はとても優しい。
ペットを可愛がり、叔母に遠慮し、男の傷を手当てしようとし、自殺を止めようとした後には苦しませないようにし、馬を助け、何より新しい「保護者」の言いつけを毎回きちんと守ろうとする利口で真面目な子供だった。仕事を覚えるのも早く、一度見たら銃の扱いも記憶できるほど賢い。咄嗟の命乞いにも機転が利く。周囲は皆等しく彼をよそ者として扱うけれど、彼自身は状況に応じて自分をカスタマイズし、大人の真意を理解しようと努力していた。現に同じソ連の帽子を被っていても、少年の扱いにおいて判断が真逆の男達がいた。

とは言え、度重なる虐待と拒絶と屈辱から他者への不信感は募り始める。しかも自分の朝食を代わりにくれる優しい兵士には復讐の重要性を教わる。こうして少年は徐々に、残忍な行為も辞さない人間へと成長していく。

全ての怒りが、ようやく迎えに来た父親へ向けられるが、両親もまた名前を奪われて生き延びていたのだと知る。

収容所の中も外も、地獄だった。
命が助かっただけでもかなり幸運かも知れない。
だが受けた迫害は決して忘れない。
癒えない背中の傷跡と同じように。

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自分の生活に余裕が無ければ、赤の他人を助けることは難しい…にしても、彼を恐れたり搾取したりする大人側の対応は、常軌を逸していました。
助けてくれる人、少なくとも彼を傷付けない人々も登場するけれど、良い環境は続かず…次の保護者もまたロクでもないのだろうなと、観ているこちらもそう思い始めてきます…。

モノトーンの冷たく美しい自然の中で繰り広げられる人間達の生活は、堕落し醜悪極まりないです。

神父からは、イエス様のように君もこの苦境を乗り越えられるよ、と慰められますが…

何十人もの大人達の悪行を、幼い少年がたった一人で背負わなくてはならないのか?

信者に怒られそうですが、イエス一人では全然足らなかったんでない?というくらい悪徳が蔓延した世界でした。

少年が自分の名前を覚えていたことだけが救いです。

「付いたペンキ」で他者を差別するということは、極端な話、着ぐるみの人、お化けに仮装している人を、怪物だと信じて社会から抹殺しようとするのと同じこと。目玉がくり抜かれた男のように、ならばいっそ全員盲目になれば偏見の無い社会が成立するかというと、それでもダメなのが ”Blindness”を観るとよく分かります。子供は結構大人をじっと見つめてくるものだけれど、少年もよく大人達を観察していました。見なければ良いというものでもない。むしろきちんと正体を見極めなければならないのだと、少年が教えてくれているような気がしました。だから気の毒な使用人には眼球を返してあげるのではないでしょうか。

動物は視覚や嗅覚などで仲間を認識するけど、人間が他の動物とは違うと言うなら、もう少し高度な情報処理をしなければなりません。

主人公を演じた少年は、監督が直感で選んだ子!
初出演にして結構な演技内容です…。

生きた動物達は…
もちろん傷付けずに撮影したとのこと。。
辛そうだったけど…。
(フェレットも小鳥も馬も山羊も無事!)
さばく魚1匹だけ、撮影前日に市場で購入したものだそう。

銃を構えたMitkaは超格好良かったなぁ。

まさに鬱映画でした…。トラウマもの。
この後Trollsから文字通りミュージック★パワーをもらえて良かった。
鑑賞の順番が逆だったら、えらいことになってました。
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