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異端の鳥のdeadcalmのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.0
全ジャンルカバーする勢いの様々な、かつ誇張の激しい悪意と悪徳の畳み掛けに圧倒され、それとは対照的に美し過ぎるモノクロの世界やスラブ風架空言語と相まって、何か原初的な寓話を読んでいるような感覚で始まる。起こる出来事のオーバーさにケレン味も感じるが、威力の強すぎるシーンの連続に引きずられるように鑑賞する。しかし(後述するけれど)後半は少しずつ様相が変わっていく。

前半での主人公の少年は、自らが地獄のような境遇の当事者であるにも関わらず、心理描写が薄く、どこか地獄と煉獄を巡るダンテのような観察者のようにも描かれている。その現実味のない人格が終盤、そうバリーペッパーとの出会いのあたりで、自らも純粋さを失って積極的暴力による解決を覚えるにつれ、どんどん人間らしさも帯びていくように見えて、そこでどこか、ああこの子も人間だったわ、という安心感のようなものさえ抱いてしまうのがむしろ恐ろしかった。

少年自身のそのような変化と同様に、物語自体もまた、寓話的でシュールな地獄巡りからナチスとユダヤ迫害という現実的舞台に向かって漸近的に地続きに繋がっていくという形態で、これはあまり類がない気がしてとても新鮮だった。前半の雰囲気だと、これはもう最後まで家族は登場しないし主人公の名前もわからないまま終わるのだろうとばかり思っていた。でもこれは現実にある地獄を反映した歴史の映画だった。

現実にある地獄を反映した歴史の映画だった。
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