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マリッジ・ストーリーのはーのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
5.0
「争うつもりはない」とスマートなポーズを構えてみても、いざ離婚の渦の中に足を踏み入れれば、心の余裕など簡単に飲み込まれ、憎しみたくもないのに憎しみをぶつけあってしまう。その過程がリアルで痛々しく、とても切ない。

意外な組み合わせにも思える主演2人から生まれる、圧倒的な芝居に釘付けになった。
2人の名演は、後半の口喧嘩のシーンで最高潮に達する。
話し合おう、とスタートしてからあれよという間に感情がもつれ合い、タガが外れ、自分でも何を言ってるかわからぬままコントロールを失った口から飛び出す、最低な罵声。溢れ切った後に押し寄せる、自責や後悔が入り混じった複雑な涙。こんなに素晴らしい喧嘩シーンは見たことがない。

現代アメリカにおける離婚裁判ならではの、一筋縄ではいかぬ所も丁寧に描かれている。裁判のシステムとしてであっても、弁護士同士による、大袈裟に相手を貶め傷付けていくことは、本来本人達の望む所ではなかった。弁護士達の頼もしくも強引なリードのもとで、当事者であるはずの2人の主体性は迷子になっていく。離婚そのものではなく裁判というものに翻弄される姿から、離婚裁判の本質的な難しさが浮かび上がる。

そんな現代的な夫婦の別れを、中立な視点で誠実に描き切り、悲しみ憎しみの中に残る愛とリスペクトが常にさり気なく漂う。
余計な演出は一切なくシンプンルに、最高の演技が引き立って真っ直ぐに進む、会話劇の傑作。
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