垂直落下式サミング

HOKUSAIの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

HOKUSAI(2020年製作の映画)
3.0
「富嶽三十六景」などで知られる江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の謎多き生涯描く伝記ドラマ。貧乏絵師が北斎として江戸を席巻し、画狂人生をまい進する姿が描かれる。
町人文化全盛の江戸が舞台。若い頃からの天才っぷりや、横に繋がった周辺の人々との関係、次々と革新的な絵を世に送り出すが、風紀を乱すなどと幕府から反感を買ってしまうなど、北斎らしいエピソードを交えながら、その他の江戸文化の担い手たちとの対比がよく描かれていると思う。
柳亭種彦を演じる瑛太が死ぬところは、かなり気合いが入っていて、それにインスパイアされた北斎がイマジネーションで惨殺現場を絵として再現していくところも狂っていて最高。
でも、「北斎はアウトサイダーアーティスト」っていう解釈って、やっぱあんま好きじゃないな。そんなのは、今日日むしろ在り来たりで凡庸ですよ。存命中に正しく評価されず、芸術家として理解されないまでも、生粋の江戸の職人としての心意気を持ちながら、その長い人生を歩んだっていうほうが格好いいと思うんだけど、少数派なのでしょうか。
北斎をエキセントリックな芸術家として描くのは、後年の解釈だと思う。そういうゴッホ的なのって明治以後になって、開国してから貿易とともに欧米から輸入された概念じゃないですか?
文明開化まで、この国の庶民にアートなんて存在しなかったんだから。だから、日本人は昔からいまに至るまで、西洋的なアートの表現力や思想性やらといった文脈を理解しきれずボンヤリしてんすから。
日本で芸術と呼ばれるものの多くは、技術力のことを言っている。技巧、手管、経験知、これが評価される職人の国だから。アートかアートじゃないか。答えを出すとか出さないとか、そういうことじゃないんだよ。
アートを実用性と価値に結び付けたがる下賎で下世話な民族。それが我々でしょう?誇り持って野暮にいきろってことよ、ジャパニーズピーポー。