しゅん

歌うつぐみがおりましたのしゅんのレビュー・感想・評価

歌うつぐみがおりました(1970年製作の映画)
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ギアが医者の友人に言う「ずっと忙しいが何もしていない。静かな場所は落ち着かない、騒がしい場所は苛立つ」というセリフが、全体の気配を伝えている。シンフォニーの最後にステージ裏から現れてティンパニを叩く、つまり自分の出番以外は外で動き回る彫りの深い男は、衝動を持て余しつつも、友情を欠かそうとはしない。恋愛に夢中なようでどこか浮ついている。いい加減だけれど、ゴダール映画の若者のようなエゴイズムや理屈とは無縁。ただ時間が過ぎるのと同じように、因果律も示されずシーンは次へと移り、その移り変わりに憎悪や固執はない。
憎しみがない故に、男はどこか疲れてる。誰からも慕われる役割に疲れてる。家に帰ってきて、彼はどこに電話をかけたのか。朝起きて、友人の案内を寝たふりで放棄し、そのまま最後のシーンへ映る。終わりの事件はアクシデントというより、ボブ・ディランの偽装(と言われてる)事故を思わせる恣意性を感じる。彼がどうなったかはわからない。感情と因果もなく、ふたたび時計の音が刻まれる。

コーラスに即席で参加するシーン、とても良かったな。
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