ヨルゴス・ランティモス、自他共に認めるキャリアのスタート地点──ヨルゴス・ランティモス長編デビュー作とされているが、実は2001年にラキス・ラゾプロスというコメディアンと共同監督で『Ο καλύτερός μου φίλος(英題:My Best Friend)』という作品を撮っており、そちらが本当の長編デビュー作のようだ。同作はどうやらキャリア上なかったことにされているようで、そんなこと言われたら俄然気になってくる。いつか観たい。てことで正確には単独監督としての長編デビュー作『キネッタ』、Strangerの特集で観てきた。今年も痒いところに手が届く特集ありがとうStrangerさん!
海辺のリゾート地キネッタで、映画監督か映像ディレクターのような仕事をしている中年男性が何かの事件の再現映像のようなものを撮影している。彼は出演者の男女に事細かに指示を出す。右膝で腹を蹴り上げろ、地面を這って逃げろ、ブラの左のストラップを右手で外せ、etc。命令口調の指示に従って役を演じるうちに、共演者の男女に奇妙な友情が芽生える。同時に、女性の出演者は体に傷を増やしながら希死念慮を強くしていく。その後のヨルゴス・ランティモス監督作に通底する「支配と従属」のテーマが既に垣間見られる。ヨルゴスのストロングポイントとしてゴテゴテした映画の面(ツラ)に似合わず音楽の使い方が意外とエモいというのがあるけど、本作でもオープニングシーンで男性がヘッドホンで音楽を聴いていた理由を中盤で明らかにするところとか静かにエモくて良い。寓話性が控え目で80年代ゴダール的な難解さを纏っているという作風の違いはありながら、これは素晴らしい単独監督デビュー作と大拍手でした!