精神病院の中庭で木に上っていた患者たちが手紙の到着とともにぼとぼと落ちてくるシーンはマジベロッキオ。乳母と実母の緊張関係の表現としての足音。後者がフレームアウトしてからも足音が響き渡り、ドアの隙間から廊下を横切る姿が垣間見える。雨の日に鎧戸を閉めるシーンの影が素晴らしい。
屋内の緊張関係は、やがて屋外、社会全体の緊張関係へ展開される。室内に響く足音は、夜の街にアジビラを貼って回るアナーキストの暗躍、街路を行進するデモ隊の歩み、それを制圧する騎馬隊の蹄の音へ変奏されていく。
手を取り言葉を教える。縛り付けている包帯を解く。手紙を読ませる。「自由な女でいてくれ」と綴れられた手紙を読んだ医者のあまりに直裁な行いに救われたような気持ちになる。