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ディック・ロングはなぜ死んだのか?の都部のレビュー・感想・評価

3.4
知るべきではない真実も世の中にはある──犯人当てならぬ死因当てを物語の軸とする本作は、タイトルに反して上品で硬質な画作りを徹底しながらも、杜撰な死因の隠蔽工作に励む男たちの空回りを描いている。

先んじて死因だけを口にすれば"異常者"として判定されてしまうであろう彼等の境遇と失態に寄り添い続けることで、観客は彼等に奇妙な共感を得るという意味で非常に面白い構成である。本作の死因を鑑みるとこの題材で100分の映画を撮るという姿勢が既に胡乱ではあるが、きっと看破されてしまう嘘を隠し通そうとその場しのぎの嘘を繰り返す男達の不出来を歯痒さを抱えて見守る……、そういう映画もあって良いと思う。改めて鑑賞するとコーエン兄弟の『ファーゴ』とやっぱ似てるよね。

しかしそれでも牧歌的な田舎町に潜んでいた狂気性に対する引きの感情は否めないし、物語を総括する婦警の台詞が正しく作品と人物の困憊の結果を一言に言い表している。それはいわゆる多様性という言葉と結び付くものであり、家族を持ちながらも凶行に走ってしまった/走る他なかった当人の性質や気持ちを考えればかなり切実な話なわけで。
硬派を装いながら馬鹿馬鹿しい話をやっているようでその核には歪んだ誠実さがある──という作りはダニエル兄弟の弟が撮った映画だなと。
作中で彼等を失敗した者として突き放しながらも、その生き方をかろうじて肯定するものとして終盤の"解放"があるのも改めて見返すとだいぶ好きな作り。本作は実在の事件を元にした映画だが、便宜的に加害者と呼ばれる彼らに対するある種の優しさを孕んだリスペクトを込めているという意味で稀な映画とも言える。

取り返しの効かない失態を犯した男たちを慰めるように流れるニッケルバックのHow You Remind Meが静かに物語に幕を引く画も良い。



以下ネタバレ込の講評。




【ディック・ロングはなぜ死んだのか?】という映画は、動物性愛者の二人がその情事に巻き込む形で過失で死んでしまった友人の死を隠蔽する映画な訳だが、多様性の許容基準が悲しくも表面化するという意味で意義深い作品であると思う。

本作の謎を調査する女性警官はセクシャルマイノリティ──同性愛者としてその存在に対する問いかけは当然なく進行するが、同様のマイノリティの一部であるズーフィリアの彼等は余地なく作中で排斥される。それは妻帯者の身で自分の性指向を継続していた罪によるものも大きいが、同じマイノリティといえど汚らわしいと判定されたという面も大きい。
本人が願わずともそう生まれてしまった/そう生きたいと本能が思ってしまう、作中人物は現代の常識に従う形でそれを避難するが、彼等の杜撰な隠蔽を捉え続ける形で彼等の人生に少しばかりの同情の余地を与えるのは好ましい──動物性愛者もまた多様性で守られるべき個人だと私は思うし考えているからだ──と思ったし、終盤のコメットを逃がすシーンで奇妙なエモーショナルな気分に襲われるのは自分だけではないと思う。
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