幽斎

バーナデット ママは行方不明の幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
「ビフォア・サンセット」Richard Linklater監督が、全米ベストセラー小説を映画化。夢を諦め家族に尽くした主婦の再生を描く。京都のミニシアター、出町座で鑑賞。

プロットは「こじらせ主婦」。原作は2012年上梓「Where'd You Go, Bernadette」原題と同じ。ニューヨークタイムズ紙のベストセラー選定作品。著者Maria Sempleはシアトルで活動する女性作家。「ビバリーヒルズ高校白書」脚本家の最初の仕事、他にもエミー賞の優秀テレビシリーズ賞にもノミネートされた。本作の映画化は彼女の大ファンと言う大物女優が主導して制作。映画ではコメディ色強めに創られた。

Cate Blanchett 55歳、見えね~私の母親と同世代よ。南極のお隣オーストラリア出身の彼女は国立演劇学院卒で、舞台女優としてキャリアスタート。Ralph Fiennesと共演「オスカーとルシンダ」早い段階でハリウッドも注目。翌年「エリザベス」早くもアカデミー主演女優賞ノミネート。「アビエイター」助演女優賞で念願のオスカー。「ブルージャスミン」アカデミー主演女優賞。2023年幽斎的ベストムービー「TAR/ター」主演女優賞は逃す。アノ演技で獲れぬなら何で取れるのかと言いたいが、アジア系俳優が男女問わずアカデミー主演賞を獲得する史上初の快挙、Michelle Yeohには勝てナンだ(笑)。

皆さんは「Seattle Freeze」ご存じだろうか?。ワシントン州シアトル市は、他の出身者が友人を作るのが難しいと言う信条。シアトル市民は冷淡で他人と距離を置く、他人を信用しないと散々な云われ様。パーティーでもシアトル出身だけで徒党を組む。日本人はシアトル=イチローだが、人口73万の割にお高く止まってる。私の住む京都市は倍の約147万人なんやけど(笑)。原作者の体験に基づく「彼らは礼儀正しいが友好的ではない」、シアトルのルーツが北欧人の入植と言うのが通説だが、Blanchettは通算10度目のゴールデングローブ賞ノミネートを果たす。彼女のファンなら必見かも?。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

監督の新作と思い観に行ったが、途中で気付いたが本作は2019年。レビュー済「ナイトメア・アリー」2022年鑑賞済。「TAR/ター」2023年。何とも言えない後出しジャンケン、何で4年もコノ面子で塩漬けしたのか、始めは意味が分らないがソレは見て分かった。映画ファンの特定の層には「本当にどうでもいい話」見えると思う。だが、ソンな現実逃避の連中に忖度する必要は全く無い。配給会社は作品が良ければSNSで評判が悪くても(実際に否定的なコメントが多かった)自信を持って世に送り出して欲しい。

社会の厄介者と自嘲するバーナデット、夫役Billy Crudup、コレもレビュー済「秘密への招待状」現実と向き合わず逃げる道を選んだと冷静に分析。最初のレトリックは「自分の意志で自分が変わる」ニューヨークで環境に配慮した気鋭の建築家も「シアトル・フリーズ」見事に躓く。次のレトリックは「クリエイティヴ」。同業者も必要なのはクリエイティヴと言う通り、建築家としても環境保全にしても「想像する事が一番の妙薬」。取り戻す舞台が「南極」地球上で環境の保全や生態系の保存に関する条約が世界一厳しい地。環境に配慮した観測基地の設計は建築家としてのアイデンティティの復権、最後に夫の愛と家族の絆も取り戻す。良く出来た話だなぁ(褒めてます)。

原作はKindle版が無くて未読、彩流社の単行本を読んだ友人の話では原作とは違うらしい。エルジーの立ち位置はバーナデットのケアに疲れ秘書のスーリンとセックスして子供も産まれるが、映画では妻を献身的に支える。バーナデットが心情をThe Beatles「アビィロード」重ねるが、映画ではCyndi Lauper「タイム・アフター・タイム」監督らしいセンスの良さも光る。作品は無く為った監督の母親に捧げられた、母親もバーナデット。

友人が「コレは書いて欲しい」予告編の件。本作は「TAR/ター」とも接点が有り、芸術家と生活との軋轢を描いた。しかし、予告編は極めて凡庸で「女はつらいよ」タイトルを変えても良い位。私が男はつらいよ的な人情話を見る訳無いよね(笑)。
www.youtube.com/watch?v=2KATylsPyfM&ab

Blanchett目当ても娘役Emma Nelsonにヤラレタかも?。監督らしい会話劇がメインですが、妻と夫、母と娘のパワーバランスも絶妙、家族が精巧に再現された。説明口調に疲れるが、ラストは映画らしいサプライズで〆る辺りは、監督の腕もまだ落ちてない。スタイリッシュなドーム基地は本物かね?。ソレこそ環境問題のSDGs(笑)。「本当にどうでもいい話」層とは妻に丸投げの夫、子育てで職場を離れた女性なら響くと思う。

「Krsnaの18の奇跡」私はEXクリスチャンでヒンドゥー教は無知、インドの文化を京都の大学で学んだ友人に依れば、クリシュナはヒンドゥー教の神様、ヴィシュヌ神の8番目の化身。優しさ、愛の神様。映画では18の奇跡、残り16個はビーの人生に託されるが「私1人では16個は無理」大まかなプロットを観客が分れば良いと思う。

バーナデットは芸術家として建築物が「建築界のノーベル賞」プリツカー賞を受賞したが、2024年は日本の建築家、山本理顕さんが選ばれた。次のレトリックは「芸術の儚さ」芸術家からアートを具現化する場所を奪うとドウ為るか。自分の子供はアート作品でも建築物でも無い。母親は子育てに無償の愛を提供するが、自分を押し殺しても平気なフリが出来るのか?。キリスト教の結婚は「生涯を添い遂げる」他人事に思える事も、自分事として起こるのだと肝に銘じたい。そして、貴方自身も。

コスパやタイパばかり求められるが、人間らしさは常にクリエイティブから生まれた。
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