【幽明異境】
監督:高橋伴明
脚本:高橋伴明
原作:長尾和宏「痛くない死に方」「痛い在宅医」
人生に於いて最も哀しい出来事。それは
「死別」
長く生きれば生きる程、その心痛と向き合う。時間、という“時薬"を持ってしても大事な人との別れというのは、本当に。
自分は亡くなる方よりも残される者の方がより辛いと思っている。感情しかり、生活しかり。
もし、大事な人が苦しんでいるのを見たら頭にはこれ以外浮かばないだろう。
「代わりたい」
そう想える相手、というのは逆の立場だとしても、そう想われているのかも知れない。
しかし、その労わる想いすらも飲み込まれてしまうのが病であり、苦痛や苦しみ、精神をすり減らし寝る間もない介護や看病だ。
医療の発展に伴い期間が増す闘病や延命治療。亡くなり方や迎え方は人其々だ。同じ病気でも、同じ症状であったとしても。
今作は、患者の意思を尊重し、如何に自分らしく、自分のまま「痛くない死に方(平穏死)」が出来るか。それに寄り添う在宅医師や医療従事者、そして患者と家族の物語。
今作とは無関係だが
昔、テレビで在宅医のドキュメンタリー番組を見ていた時に、こんな場面があった。
今際の際、顎を動かし不安定になる呼吸。その方に医師は何度も優しくこう囁いていた。
「自分の力で逝ける?」と
当時はその意味がわからなかった
その後、深く吸い込んだまま亡くなったその方に、医師はまた何度も耳元で囁いた。
「逝けたね。頑張ったねー、よく頑張った。自分の力で逝けたね。凄いね。」って
亡くなったのに何が凄いのかわからなかった
歳を取り、経験し、少なからず見聞きをし、医療用麻薬の良し悪しもわかって、やーっと無知で鈍感な自分でもその凄さが理解できた時があった。今作の視聴中にブワっとその時の感情が蘇ってしまった。
在宅医療や延命治療、標準治療に対する考え方は様々だ。今作はテーマがテーマなだけに、一方向からの視点になっているし、万全な状況で在宅医療を受けられる人もごく一部だろう。
それでも、今作は万人にもわかりやすい描写と構成、患者を取り巻く環境の数々、医療従事者や家族の葛藤。何より、豪快で明るい人柄の末期がん患者を演じた本多役の宇崎竜童。
終末期にあっても周囲には笑いや笑顔が絶えず、自分の“理想"とも重なり心にくるものがあった。苦しんだ末の最後、というのは近しい人の心にずーっと傷を残す事になる。
残される者が背負う重荷を、少しでも一緒に持って逝きたいものだ