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マザーレス・ブルックリンのsomaddesignのレビュー・感想・評価

マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)
5.0
アーサー meets L.A.コンフィデンシャル

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1957年のNY。孤児院で育ったライオネル・エスログ。トゥレット症候群を患う彼は、汚言症やチックに悩まされていた。そんな彼の驚異的な記憶力を私立探偵のフランク・ミナに認められ引き取られたライオネルは、探偵事務所で見習いとして働き始める。ある日、フランクが何者かに殺されたことから、ライオネルは犯人探しに乗り出すのであった。

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エドワード・ノートン監督・脚本。
NYが舞台でトゥレット症候群のすみっコぐらしって、去年よく似た映画で強烈な印象を残された気がする。エドワード・ノートンもまたホアキンとは違ったベクトルのジョーカー役が似合いそう。


舞台を原作から50年代に移したおかげでノワール味がハッキリ。アレック・ボールドウィンはSNLでトランプ大統領のモノマネをしてるのもあっての起用か? おかげで過去のNY市の人種偏見・差別を描いてるのに、現在の断絶や権力の横暴を暴いてるよう。

中産階級がググッと増えて、庶民の生活水準が向上し、アメリカン・ドリームを夢見ながら消費文化を謳歌していた50年代のアメリカ。が、それはあくまで白人社会での話。人種間の緊張は最高潮に高まり、公民権運動へと繋がる前夜が舞台。

モーゼス・ランドルフのモデルになったという実在の人物、ロバート・モーゼス。その功績と影響力から「マスター・ビルダー」と呼ばれる都市開発に尽力した大物政治家で、その影響力を大いに奮ってNYを大改造。現在の繁栄は彼なしではあり得ないとか。
だけど、20世紀初頭の風潮とはいえ、彼もまた人種偏見の人であり、その大きすぎる影響力を使って特に黒人社会への差別を行い助長した。
古き良き時代の陰に隠された黒歴史を振り返ることで、現在のレイシズムがすけて見えて自省を促すような作りに見えた。


慣れない制作・主演・監督・脚本をこなしたとは思えない完成度で、さすがのセンスの高さを感じさせるし、特にライオネルを演じる姿は多面的で、ひ弱な青年に見えたり、清濁併せ飲む大人の魅力溢れる男に見えたりカメレオンっぷり。
原作から大きく改変して、映画的に映える・メッセージとして通りやすい物語に作り変えてしまえる審美眼の高さもまた凄い。


差し迫った深刻な問題のはずなのに、ライオネルから漏れ出る汚言症が面白くて、緊張と緩和のバランスっていうのか、思わず笑ってしまう。
「オーシャンズ8」「スパイダーバース」でお馴染みダニエル・ペンバートンの劇伴は今作でも素晴らしく、レディオヘッドのトム・ヨークとレッチリのフリーによる「Daily Battles」やウィントン・マルサリスの名演が腰砕ける勢いでカッコいい。ライオネルならずともノリノリ必至。サントラ欲しいけどCDは未発売で、ストリーミングとダウンロード以外ならアナログ盤しかないって過去と現在混合してるみたいで愉快。



7本目
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