DJあおやま

映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者のDJあおやまのレビュー・感想・評価

4.2
諸事情により約5ヶ月遅れでの公開となった本作は、なにかと特筆すべき点が多いため公開前から並々ならぬ期待を寄せていた。
まず、本作はクレヨンしんちゃん生誕30周年記念作品であり、それに相応しくクレヨンをモチーフとしている。また、『ラブライブ!』シリーズでお馴染みの京極尚彦が初めて監督を務める点も注目したい。また、長年のファンとして嬉しいのは、本作は単行本23巻の短編『ミラクル・マーカーしんのすけ』を元にしており、“ニセななこ”や“絵の精”が原作と同じ姿で登場している点。そして、もう一つ嬉しいのは、劇場版では実に21年ぶりに“ぶりぶりざえもん”が台詞付きで登場する点だ。
そういった特別づくしの本作は、その期待に恥じぬ素晴らしい出来だった。近年の劇場版クレヨンしんちゃんは良作揃いではあるものの、その中でもひときわ素晴らしい出来栄えだった。
ストーリーは、多くの劇場版クレヨンしんちゃんと同じで、簡単に言うと危機に陥った春日部をしんちゃんが救うというもの。ただ、そこに劇場版では5作ぶりの登場となる“ななこおねいさん”の存在が、本作をボーイミーツガールたらしめており、物語のドラマ性を高めている。
本作はタイトルにある通り“ほぼ4人の勇者”をメインに据えているため、“カスカベ防衛隊”や“野原一家”の活躍は薄め。しかし、勇者たちの個性がしっかりと描かれているため、物足りなさは感じなかった。また、それぞれのキャラクターにしっかりと見せ場を用意しており、そのどのシーンでも涙が出てしまったくらいだ。なかでも、“ニセななこ”にいたっては、登場シーンの時点で結末を想起させられて泣けてしまった。
驚くべきは脚本を務めるのが、『さよなら渓谷』や『そこのみにて光り輝く』の高田亮である点。クレヨンしんちゃんはおろか、そもそもアニメ畑出身でない脚本家が手がけるとは驚き。それなのに、劇場版クレヨンしんちゃんのツボをしっかりと押さえつつ、風刺的なテーマも描くことで、大人の鑑賞にも耐えうる作品に仕上げており素晴らしい限り。クライマックスのシーンでは無責任な大人たちが色濃く描かれており、妙にシニカルだったのが印象深い。
オリジナルキャラクターのデザインは実に素晴らしく、なかでも“姫”がとびきりの可愛さを誇っていた。また、“ラクガキキングダム”の面々のデザインも良く、あのホットドッグの大臣はもう少し活躍を見たいと思ったくらいだ。ただ、姫や防衛大臣など、なぜか主要のオリジナルキャラクターに名前が存在していない。これは、なにかの意図があってのことなのだろうか。
長年のクレヨンしんちゃんファンとしては、劇場版ではお馴染みの“団羅座也”の登場は相変わらず嬉しい。台詞は無かったものの、“鬼瓦築造”たちの登場もちょっぴり嬉しかった。
姫を演じるきゃりーぱみゅぱみゅの声は、とびきりキュートで世界観にもマッチしていた。また、公開延期に伴い、すっかり旬が過ぎてしまった、りんごちゃんの演技が思いのほか素晴らしく、ポップな見た目に反した不気味さがキャラクターから滲み出ていた。ところどころ見せる武田鉄矢のモノマネが必要だったかはわからないが、これぞ劇場版クレヨンしんちゃんの敵役に相応しい声質だ。また、玄田哲章が“アクション仮面”としてでなく、敵のマッチョなキャラクターとして登場するのもたまらなかった。
ラクガキングダムの城をはじめとしたコンセプトデザインを、劇場版クレヨンしんちゃんではすっかりお馴染みとなった久野遥子が担当。相変わらず優しいタッチでファンシーなデザインが良い。また、作中に登場するラクガキは、春日部市内の子供たちが協力しているということをエンドロールで知ってぐっときてしまった。
オープニングは、テレビシリーズと同じゆずの『マスカット』。この楽曲は前々から苦手なのだが、本作ではオープニング恒例のクレイアニメがないため、ますます惜しい気がした。と思いきや、クレイアニメは、しっかりエンディングに用意されていて胸を撫で下ろした。エンディングテーマのレキシの『ギガアイシテル』の良さも相まって、作品の余韻としては100点。
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