建野友保

リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズの建野友保のレビュー・感想・評価

4.1
90年〜00年代を代表する巨大バンド、オアシスからノエル(ギャラガー兄弟の兄)を引き算したリアム(同弟)率いるBeady Eye(いわばオアシスの残党)に対して、僕は相当な思い入れをしてきた。ソングライティングができ、ギターもそこそこ巧くて、ボーカルもできる兄・ノエルはどう客観的に見ても優秀な兄であり「勝ち組」。それに対してリアムが秀でているのはマイクを前にして仁王立ちする佇まいとボーカル。日本人特有の判官贔屓もあってか、弟くん頑張れ、優秀な兄に負けるな…。そんな気持ちだった。かくいう僕も優秀な長男(成績も良かったし運動神経も抜群)に対する劣等感をバネにしてきた次男だったから。もっとも、二人兄弟だと思っていたギャラガー兄弟には長男のポールがいて、ノエルは次男、リアムは三男だったことを知って少し複雑な心境にはなったけど、それはさておき…。
この映画では、リアムがオアシス解散(というかノエル脱退)で失意に沈み、残党で結成したBeady Eyeもイマイチな評価で、お金の問題や離婚問題を抱えてマスメディアから袋だたきになり、心身ボロボロになっていた様子が描かれる。そして新しい伴侶(デビー)を得てから再起一転、ソロボーカリストの道を切り開いていく。自分なりのソングライティングに挑戦してみる。新しい表現を見つける。新しいバックバンドを得る。良い曲ができたぞ、バックの音も最高じゃねえか、そしてソロアルバム第一作は全英1位。俺は帰ってきたぞ。ロック最前線のマイクスタンドの前、ここが俺の居場所だ! 最大の涙ボロボロポイントである。
思えばリアムはいつも悪役だった。口は悪い、素行は悪い(本当かどうか知らないけど)、才能はない…。でもそんな風評とは別に、家族に愛され、音楽関係者に愛され、何よりもロックに愛されていたリアムの姿が描かれていて、ハッとする。
いつもいきり立っていたように見えたリアム、反骨精神をむき出しにしたリアムこそ、ロックにふさわしい。そしてオアシス時代とは一風変わった、エッジの利いた音が10代の支持を得ていく。
酒におぼれ、ヤクにおぼれ、セックスにおぼれ、マスメディアに叩かれて、これまで何人のロックミュージシャンが姿を消してきたことだろう。でもリアムは再起に成功した。彼のことを信じ続け、背中を押してきた家族の力を感じさせる作品だった。
最後に、喉は大切にね、くれぐれも。
建野友保

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