クイーンメーカーや夫婦の世界でのハイソでセレブなイメージしか知らなかったキム・ヒエが、ここでは化粧っ気のない地味でさびしげな中年のシングルマザーを演じていて、この俳優の新しい魅力を知る。
20年前に別れたきりの日本の女友だちとは、控えめに仄めかされるだけなのだが同性愛のような間柄だったように思える。その20年ぶりの再会のシーンが本当に静謐で、抱き合うでもなくキスもなく、少し間隔をあけて向き合って静かに涙を流すだけなのだけど、なんだかじーんとするし、逆に言うとこんなに寡黙な演技で感情を表現できる二人の力量に感心する。
二人とも人生をなかばあきらめているかに見え、積極的に動くタイプではなく、そのまま過ごせば二度と会うことはなかっただろうに、まわりの人々が背中を押して、段取りをつけて、最後にようやく会うまでの過程がていねいに描かれていた。
キム・ヒエの相手の役の中村優子さんという方、初めて知ったけど、素晴らしかった。役作りのためにキム・ヒエの高校時代の写真を借りてイメージをふくらましたのだという。
長年経ってもいまだにたがいのことを夢に見るという二人の恋は、いつまでもふりやまない小樽の雪のように白くて冷たくて明るい。
ところで、韓国ではキム・ヒエのような年齢の女性が堂々と主役を演じるのに、日本ではたとえば中村優子が主役になることはあまりなくて、若い人を主演にしないと売れないと思いこんでいるのだとしたらさびしい。
