MasaichiYaguchi

グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.8
太宰治作品というと退廃的で自滅的、悲愴感漂うものが多いが、未完の遺作「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチがコメディとして戯曲化したものを、成島出監督が大泉洋さんと小池栄子さんのダブル主演で映画化した本作では、別れ話を題材に儘ならない男女の心の綾をスクリューボール・コメディで描いていく。
舞台版では主人公の田島周二を仲村トオルさんが担当したが、映画版では大泉洋さんが人間味豊かに女にだらしないダメ男を演じている。
そして田島が何人もいる愛人と縁切りする為の“切り札”となる偽妻役の永井キヌ子を、舞台版同様に小池栄子さんがパワフルに演じている。
田島とキヌ子が嘘夫婦になって別れを仕掛けるタイプの違う愛人たち、花屋の青木保子、挿絵画家の水原ケイ子、女医の大櫛加代を、緒川たまきさん、橋本愛さん、水川あさみさんが夫々のキャラクターの“色”を出して演じていて楽しい。
今回の田島の企みは、木村多江さん演じる正妻の静江との“元サヤ”を狙ったものだったのだが、そうは問屋が卸さずに事態は驚天動地の方向に転がっていく。
この作品は愛人たちに「グッドバイ」を告げるという執着心の“断捨離”を通して、愛欲の田島、金欲のキヌ子が“本当に大切なもの”を見出だす様を喜劇仕立てで描いていると思う。