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Our Friend/アワー・フレンドのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
しばらく連絡してない友達に電話したくなる

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2人の娘を育てながら幸せな家庭を築いていたマットとニコル。マットはジャーナリストとして世界中を飛び回り、ニコルは舞台女優の夢を一時中断、家事育児に懸命な毎日を送ってた。そんなある日、ニコルが末期がんの宣告を受けたことから、家族の日常は一変。妻の介護と子育てによる負担が重くのしかかるマットに救いの手を差し伸べたのは、2人の親友デインだった。
「Esquire」誌に掲載され、全米雑誌大賞を受賞したエッセイ「The Friend : Love is not a Big Enough World」の映画化。監督は「BlackFish」でBFTAのドキュメンタリー賞にノミネートされたガブリエラ・カウパースウェイト。

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予告編の印象で「はいはい、難病モノね。また泣かせにくるやつね」って舐めてたらバッチリいい映画で驚いた。なるほど、このタイトル。
劇場特典で、原作となったマット・ティーグのエッセイの一部を抜粋した小冊子が貰えるので大変ありがたい(表紙に「ネタバレありなので鑑賞後に読んでください)って注意書きあるのも親切!)

夫婦の絆について描こうとしたら、いつの間にかずっとそばにいてくれた人の話になっちゃった原作。二人の夫婦と共通の友人たちが、2年に及ぶ苦しい闘病生活の中で、誰かが倒れそうになると誰かが支える。
病気の辛さそのものより、困難に直面して孤独になってしまいそうな時、誰かがそばにいる幸せを描いてる。理解してくれる人のありがたさ、孤独じゃない幸福についての映画だった。

北野武はかつて著作の中で「『お前が困ったら、俺はいつでも助ける。だけど、俺が困ったときは、俺は絶対にお前の前には現れない』お互いにそう思っているところに友情は成立する」と書いてた。今作だと損得やギブアンドテイクじゃなくて、お互いの迷惑を受け入れて支え合う姿がより絆の深さを感じた。なかなか住み込みでサポートできないよ。


時系列が巧妙にズラされてて、行ったり来たりすることで走馬灯をゆっくり見てる気分。あの一家と一緒に思い出を辿ってる気分になる。
夫妻のいい時だけじゃなくて、難しい時期についても正直に向き合ってて色々明け透けで良かった。

デインが聖人じゃないのも良い。底抜けに優しい男だけど、ちゃんと欠点も多いし口も悪い。コメディアンを夢見ながらも具体的な行動に踏み出せず、いい歳して量販店のバイトで実家暮らし。女性に対して積極的ではあるものの、卑屈っぽい性格が災いしてか長続きしない。一面的な評価でいえば「負け組」かもしれないが、それを補って余りある人間性。
人の価値とは何によって測られるかの映画でもあった。経済力や物質的充足はもちらん大事だけど、誠実で優しい人で居続ける貴重さと困難さについての傑作。

ケイシー・アフレックは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」以来、家庭を持つと不幸になる役ばかり。気づけば薄幸の似合うイケオジに。キャリアと家族の狭間でブレてしまう姿がいい。夢に近づくほどに自分自身(と周囲)は荒んで行くし、なんのためのキャリアアップだったか分からなくなっちゃうリアリティ。

ニコルにしても元々は女優として輝くことを夢見てたハズ。出産・育児で一時休業状態とはいえ、いつかはまた自分のやりたい道に戻りたいと願ってる。
演じたダコタ・ジョンソンの天真爛漫な魅力と、死期を目前にままならない体と心に振り回されちゃう姿が痛々しい。映画用のフィクションだろうけど、死ぬ間際まで凛として強く美しい姿が良かった。マットには最後までそう見えてたって解釈しとく。

原作エッセイによれば、ニコルが治療の影響で髪が抜け始め、マットに頭を丸めるよう頼んだ。「どうせならモヒカン刈りにして」と言う。その後、鏡で自分の姿を見たいとニコルはバスルームへ向かう。誇らしげに鏡に写る自分の姿を見、新しい姿を写真に撮ってデインに送ったら、数分後にデインがニコルと同じようにモヒカン刈りにした写真を送ってきた。ニコルはそれを見て大笑いした。……このエピソードだけで泣ける。

デインを演じたジェイソン・シーゲル。決して聖人じゃなく、デインなりの悩みや葛藤を抱えた姿がリアルだった。出演作に縁がなくて未見のものが多い。B級コメディ映画のイメージが強かったので、こんなにも繊細で思慮深い、心の優しいおじさんを演じる人なのかと驚いた。マットたちとは家族同然の関係性なのに、親の立場を尊重したり夫婦同士・家族水入らずの場からは一歩後ずさる気遣いの深さがいい。デインにしたって大事な友達を失うってのに、マット達に献身的に尽くせる。その理由らしきものも明らかにされるけど、元来持って生まれた面倒見の良さもあるだろう(長年の裏方仕事で身についたものかも)。
あれだけ自分も苦しいのに、友達のために献身的になれるのはやっぱり聖人かもしれない。


あの洗濯物に囲まれたラストシーン、めっちゃカッコいい。
重大事だけどなんでもない感じ。物理的距離が、彼らの絆の障害にならないのをお互い信じてる。それでもやっぱし寂しくなっちゃうのを、マットがどうにか立て直して、あの一言。痺れた。



余談)
デインの運転する車で姉妹と三人で歌ってカーリー・レイ・ジェプセンの大ヒット曲。2012年のティーン向け大ヒット曲って演出でもあるけど、大オチでクスリと笑わせるための伏線でもある。


66本目
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