ベルベー

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

2.4

このレビューはネタバレを含みます

本作、上映前にトムと監督からのメッセージビデオがあって、要約すると「映画館に来てくれてありがとう!」「これは映画館で観るべき映画だよ!」というもの。ファンへの感謝を大切にするトムらしいなと心温まったけど観終わった後に思ったのは「映画館で観るべき映画と映画館で観ないと面白くない映画は似て異なるものだよな」だった。端的に言うとガッカリしたのだ。映画館で観たらつまらないわけではなかったけど、そこ止まりなことに。配信の画面で観ていたらつまらなかっただろうことに。

その理由は大きく2つあるんだけど、1つは監督のクリストファー・マッカリーの腕が明らかに前作までより落ちていること。オープニングシークエンスから既に不安で、こんなに撮り方下手だっけ?トムがいないとこんな凡庸な絵しか撮れないの?ってなった。これも上映前「沈黙の艦隊」の予告編が流れたんだけど、なんかそっちの方が良さそうだったな、海での戦闘の描き方。まあ向こうは予告編だし、そもそも潜水艦のシークエンスは「M:I」本命ではないのだから単純比較はできないのだが、しかし「M:I」は「沈黙の艦隊」の100倍以上お金かかってるだろうに何だかなあとモヤモヤ。そして海中に浮くロシア兵達の遺体をカメラが捉えた瞬間、不安はほぼ確信に変わった。マッカリー、撮り方ダサくなってる!

「〇〇と思わせて実は〇〇だった」という展開が(このシリーズではずっと)多いのだが、その見せ方も上手くない。「〇〇と思わせて」のところのショットが基本的に弱く印象に残らないので、「実は〇〇だった!」とひっくり返されてもあまり盛り上がらないのだ。そんで上映時間が長いのにかまけてモタついてる。非常に良くない。

クリストファー・マッカリー、そもそも「状況説明が上手くない」監督であり脚本家で、実は前作も前々作もその節はあったのだが、テンポが良かったのでそこまで気にならなかった。が、今回は話がモタついている+根本的にショットが下手になっているので、何が起きているのかよく分からない箇所が幾つもあった。そんなに難しい話じゃないのに。映像のどこに重心を合わせるかの判断が弱いのでは。結果、主役のトムに合わせりゃいいやになるから目立ちたいトム・クルーズ的には嬉しいのかもしれないけど、ストーリーテリングってそういうことじゃないじゃん!ストーリーが整理されてるなら別だけどそこまで整理されてないんだよあなたの脚本!

予告編やらポスターやらメイキングやらで散々見せてきた崖落下のシーンは流石に気合い入ってだけど…てかトム・クルーズの狂気をひしひしと感じだけど…作品外で散々煽って、作品内でも「飛べるわけない!飛べるわけない!」みたいにタメまくって、最早宴会芸じゃんと思った。「押すなよ!絶対押すなよ!」の世界。ファンが喜ぶ為と言われたらそうなんだろうけど、映画ってそういうものだっけ、なんか本末転倒じゃない?と、またモヤモヤはしたなあ。

もう1つは、こっちの方が業が深いんだけど…、トム・クルーズがイーサン・ハントに合わなくなってきている。というか「不変のスター:トム・クルーズ」ではいられなくなってきている。恐らく「トップガン マーヴェリック」という傑作を作った代償に。

いや分かるよ。トム的には年齢を重ねた自分がマーヴェリックだったから、差別化の意味でもイーサン・ハントが歳を取るわけにはいかなかったって。で実際トムの見た目はほぼ変わらない。60歳には見えない。でも現役バリバリは無理よ、と思ってしまった。多分本人的にはライアン・ゴズリングとかクリス・エヴァンスと同世代くらいの気持ちなんだろう。ハント君には例によって男盛りのアクション、男盛りのドラマが沢山用意されている。だからこそよ。だからこそ、逆に違和感が強調されてしまったのよ。トム若いけど、そこまで若くなくない!?って。あなたもうクリエヴァじゃないよ。リーアム・ニーソンとかの方だよ近いのは。

これ、「トップガン マーヴェリック」で若者達を導く側を演じた弊害でもあるんだよな。あれの出来が素晴らしかったからこそ、大ヒットしたからこそ、そしてトム・クルーズには圧倒的なスター性があるからこそ、マーヴェリックとハントを完全な別物として捉えることは難しい。一度老いた(からこそカッコいい)マーヴェリックを挟んだからこそ、老いないハントに違和感を抱いてしまった。

というか周りを見渡してほしい。皆お爺ちゃんじゃねえか!ヴィング・レイムスもサイモン・ペッグも役に合わなくなってきてるって。キトリッジも久しぶりに出てきたと思ったらお爺ちゃんだし。爺ちゃん達が頑張って若者の動きしてるのが透けて見えてうーん。5年前の前作と同じポテンシャルでいられたのはレベッカ・ファーガソンだけな気がする。

で、ここが個人的に一番無理だったポイントなんだけど…そんなレベッカ・ファーガソンが殉職して入れ替わりで登場することになるニューヒロイン。やかましくて役立たずで邪魔ばかりする、90年代ヒロイン像。なんで今更!?と思ったよ。

でも「M:I」が志向しているのってブロックバスター全盛期ハリウッドアクションなところあるので、当然の帰結かもしれない。当時と違い、主人公と対立するのが分かりやすくロシアではなく、実はアメリカの方だったって違いは大きい。大きいけど、アクションを見せるのにイデオロギーはどちらでも構わなかったりするし最早。

閑話休題。とにかくニューヒロインのキャラが苦手。主人公陣営をピンチに陥らせるためのキャラだから行動に一貫性がない。どう考えても逃げなくていい局面でハントから逃げたり、逆にどう考えても逃げるべき局面でガブリエルに立ち向かったり支離滅裂。あとハントを地下鉄で普通に殺そうとしてるっていうイライラもある。最後の最後まで保身と金で揺らいでいるのにもイライラ。

しかもこれを演じているのがヘイリー・アトウェルでなんで!?って。レベッカ・ファーガソンより年上なんだけど。キャリア的にも、今更こんな幼稚なキャラやらなきゃいけない人じゃないでしょう。グレース、年齢と落ち着きのなさが見合ってなくて引いちゃった。

でもこの謎キャスティングの理由を考えても、先に挙げたトム歳取ってね問題に収束するんだな。恐らく、グレースの役柄的に最適なのは20代。でも、トムが20代女性と組むとちょっと絵面キモいな…とトムの方が気にしたんじゃないか。

これがイーストウッドくらいお爺ちゃんになれば気にせず若い人とバディになれる。しかし悲しいかなトムは男盛りなので、ロマンスが醸し出されてしまう。本当は、キャラの背景的にもグレース役はゼンデイヤとかの方が良かった気がするけど、実際ハントとグレースが良い感じになるシーンがあるので40代以上じゃないとダメだったんだろうな。結果いい歳してるのに幼稚で痛いヒロインに。

それは、イーサン・ハントがいい歳して幼稚…とまでは言わないまでも、メンターポジションに達してないから。メンターになれた「トップガン マーヴェリック」では若い世代を出せたし、彼らもマーヴェリック自身も輝いていた。

というか、良い感じにならなきゃいいのにグレースと。男盛りにならなきゃいいのに、ハントにはそれが義務付けられているようで…。

気づいたら沢山文句言っちゃった。きっと「トップガン」と差別化する為に敢えて選んだ道。それが面白くなさの原因になっているのが残念だった。トムはカッコいいけど、つまらなくはないけど、面白い映画ではなかったのだ…前作までは両立できていたから本当残念!二部作と言いつつ終わり方のキリが良かったのは安心したが…あんま後編に惹かれねえな…。ポム・クレメンティエフだけは100点満点。
ベルベー

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