りっく

mellowのりっくのレビュー・感想・評価

mellow(2020年製作の映画)
4.3
好きと想うだけでなく、声に出して相手に伝えること。それは場合によって、自分本位で身勝手なことかもしれない。だが、言葉に出すことによって、相手との関係や自分の人生の新たな一歩を踏み出せるかもしれない。

その気持ちをどこで伝えるかも大事だ。それを今泉力哉は十二分に分かっているからこそ、本作はシチュエーションやロケーション含めた「場」を大切にする。古びたラーメン屋のテーブルやカウンター、花屋のちょっとした待ち合い場所、そして学校の屋上。そこで勇気を出して相手に気持ちを伝える姿が、なんといじらしく、美しく、尊いことか。

本作の田中圭は、描き方を間違えればただモテるだけの男になるかもしれない。だが、今泉力哉は彼の「はっ?」「えっ?」と困り果てた相槌と表情を巧く利用し、好きということの不可思議さを会話劇で魅せていく。もはや困惑がカオスになっていくともさかりえ演じる夫妻とのやりとりは爆笑ものだ。

そんな彼も、伝えられる側から、伝える側へと成長する。手紙で気持ちを伝え、花束を相手に渡す。その人間の血が通ったやりとりが生み出す多幸感が胸いっぱいに広がっていく。今泉力哉作品を見る幸せや喜びを改めて噛みしめる。
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