荒野の狼

オーディナリー・ラブ ありふれた愛の物語の荒野の狼のレビュー・感想・評価

3.8
一組の夫婦が、陽の落ちた薄明かりの荒地で今一仕事、農作業を終えて祈っている、あのミレーの『晩鐘』。そのポーズを捩(もじ)った、パロディと言うにはあまりに強烈な、サルバドール・ダリの絵がある。こちらは農地ではなく岩場、夫の方はなんと骸骨なんである。妻の背中には鋤(すき)がブッ刺ささっている。何が言いたいかというと、この映画のイメージがまさにこれなのだ(ダリ、晩鐘で検索)。
娘に先立たれたこの老夫婦は、妻が癌に冒され、夫は、一応生きてはいるが既に死んでいると言っていい(私にはそう見える)。
人は誰しも、かけがえのない相手や、モノを持ってしまうと、こういう苦渋を味わいますよ、という見本である。いつまでもその執着から逃れられなければ、死んでも骸骨のまま立ち続けているだろう。ありふれた共依存愛の悲劇と言えよう。生気は無いのに感情と思いが、あり過ぎる。理解は出来るが共感はできない。作りと演技は申し分ない作品だ、それ以上でも以下でもない。
荒野の狼

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