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羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
シャオヘイが主人公だけど、実質ムゲンの物語だと思う

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人間から隠れて妖精が存在する世界。人間の姿をして社会に溶け込んでいる妖精もいれば、山の奥で隠れて暮らすものもいた。森で楽しい日々送っていた小黒(シャオヘイ)は、人間たちの都市開発によって住むところを奪われてしまった。居場所を求めて放浪の旅を続けるうち、心無い人間にイジメられているトコロを同じ妖精の風息(フーシー)に助けられる。フーシーと仲間たちとの新しい生活を手にしたシャオヘイだったが、そこに最強の執行人・無限がフーシーを捉えにきて……
今作の監督でもあるMTJJにより2009年から漫画連載、2011年から配信がスタートした中国のWEBアニメシリーズ。国産アニメとして中国で徐々に人気を博し、2019年に劇場版として本作が製作されると大ヒットを記録。日本でも2019年9月公開より口コミで評判が広がり異例の大ヒット。2020年8月日本語吹替版の公開が発表。同年11月全国公開。
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あまりにクチコミ評価が高いので観に行った。

のっけからジブリ味。ジブリの影響を隠す気すらない姿勢がいっそ清々しい。他にもドラゴンボールやAKIRAなどなど……
監督自身、日本アニメの影響を公言してる通り絵面もストーリーも既視感バリバリ。テーマも「自然と人間の共生」って何度となく作られて、手垢の付きまくったテーマだけど、今中国で作られ・観られてることを思うと納得しちゃう。現代の消費社会で生きる人間にとっては普遍的なテーマなのかも。

ことほど左様に、見た目もストーリーもテーマまでいつかどこかで見たようなアニメなのに、ちゃんと今の中国の時代の空気を吸ったドリジナルな作品に昇華してるのが凄くて、人間を一方的な悪と描くこともなければ、自然側にもちゃんと揉め事があるバランス感覚も新しかった。どっちの社会にも解決不能な意見対立がちゃんとあるっていうか。

アクションシーンの見事さ、重量感の切り替えの巧みさに目を見張る。妖力を使ってフワッと移動できたり、床や壁に力をぶつける力感の描き方とかイチイチすごい。

シャオヘイの可愛らしさは言うに及ばず、ムゲンやフーシーの奥深い描かれ方も良かった。最強の執行人でありながら人間であるがゆえに妖精からは疎まれ、人として生きるのも難しいムゲン。シャオヘイと同じく居場所を探して孤独な旅を続けてきた男が、シャオヘイとの出会いで少しずつ変わっていく様が泣ける。意外にお茶目な仕草も多いし、好きにならないワケがない。
対するフーシーも守りたいものの為に図らずも戦いに身を投じてしまうわけで、本来は寛大な平和的なキャラのよう。復讐より責任感が彼を突き動かしてる姿が痛々しい。

見た目だけじゃなく、キャラとしての作り込み含めてキャラデザインが秀逸。一つ一つの仕草にそれぞれの性格が反映されてて、ディティールから魅力が漏れ出てる。
特に好きなのが、ムゲンがシャオヘイを抱っこしてあげるとき、必ず片腕を体重を支えるようにシャオヘイの体の下で受け止めてあげてるトコ。序盤こそ雑に胴体を抱えたり首根っこを捕まえてるけど、関係性が変化して慈愛溢れる仕草に変わってく。
クライマックスの最中にも、シャオヘイの服の乱れをそっと直してあげたり。微笑ましいったらない(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾


予備知識ゼロで見に行ってしまったので、長大な物語のスタートラインに立ったトコで終わってしまう感がして「100分以上かかってまだプロローグかよ!」と思ってしまった。そもそもWEB版の前日譚だったのね。どおりで終盤にかけて急にキャラが増えたわけだ。

今の中国社会で描かれるオリジナルなものに昇華してる上で「日本アニメをすごく研究してるなー」って気持ちも湧いてきちゃった。
謎だったのが、そもそもムゲンがフーシーを捕獲しようとして夜な夜な市街戦してる理由と、追われるフーシーがミン老師の元を訪ねた理由。それぞれなんとなく理屈は分かるけど、シーンとして必要だったか「?」が残った。


63本目
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