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わたしの叔父さんのmurasakiのネタバレレビュー・内容・結末

わたしの叔父さん(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

前情報なく見たのでどんな映画か全く知らなかったけれども、最後まで見たら思ったような物語ではなかったので少し動揺してしまった。

見終わってしばらく考えて、ラストシーンをもう一度見て、もしかしたらこれはちょっと怖い話なのかなと思ったので見当違いかもしれないけれどメモしておこうと思う。

私は物語前半まで、足の不自由な叔父さんと農場の生活、また両親の死といった"家族"のトラウマに縛られて羽ばたけない若い女性が夢に向かって一歩を踏み出すお話なのかなと思っていた。

BGMもなく、背景も暗く、けして幸福そうな日常には見えず、笑顔もない……どころかろくに会話もない。淡々と田舎の農場で時間が過ぎてゆき、主人公は不本意な生活をしているようにも見える。
ところどころで主人公の無表情の顔が写り、若干不気味な雰囲気があるのは抑圧ゆえかと思える。

私は着替えを手伝ってもらっていたわりには叔父さんが歩いたりすることができるのを見て、叔父さん姪っ子に甘え過ぎでは?とも思ったくらいだ。

ところが話が進んでいくと、叔父さんは案外自立心もあって主人公を気にかけ、自分と農場に縛られることはない、好きなことをやるべきだと思っていることがわかる。

主人公が獣医への関心を取り戻し、ボーイフレンドができたことを察して、叔父さんはここぞとばかりにがんばりはじめる。

これで主人公は外の世界へ羽ばたける……と思いきや、主人公のコペンハーゲン滞在中に叔父さんが倒れてしまう。主人公は飛んで帰り、つきっきりで看病する。自立を促すボーイフレンドをつっぱねる。そしてまた元の日々に……

ああ、元の生活に戻ってしまったけれど、主人公はこの叔父さんとの生活を愛していて、こっちを選んだのだな。優しい子だな。それも人生かもね。と思ったのだが、ラストにかけての主人公の不可解な行動と叔父さんの動揺した表情で困惑してしまった。

これは個人的な推測に過ぎないのだけれど、ラストではむしろ主人公の方が叔父さんを束縛しているのではないだろうか。

叔父さんは姪がボーイフレンドに対して示した苛烈な拒絶を偶然見ており、そこからラストシーンまでの間ずっと主人公に対してなにかよくわからないもののように表情を伺っている。(一方で主人公は平然としている)

主人公はボーイフレンドを拒絶し、獣医師からの連絡も拒否し、はっきりと夢を捨てる態度を示す。

この辺で叔父さんと自分の世界を壊す存在を許さない、というような、なにか激しいものがあるような気がした。
(ボーイフレンドからの手紙はなにが書かれていたのかわからないのだけど、お別れの手紙かなと考えている。というより、そうでなかっとしても主人公の表情が固すぎてもうダメそうだなと)

そしてラスト、朝食のシーンで必ず外の世界のニュースを流していたTVが壊れる。
叔父さんは叩いて直そうとするがあきらめ、主人公はいつも食べながら解いていた数独の本を閉じ、叔父さんを見る。

このラストシーンが謎に怖い気がする。
考え過ぎならいいのだけど、このテレビのニュースはこの作品においてほぼ唯一外の世界の情報が反映されていたものだし、数独は縦横と九マスの区画の中に数字をひとつだけの状態にするパズル。なんとなく、ここで叔父さんと主人公だけの閉じた世界が完成したような気配があり、それが妙な怖さとして感じられたのだと思う。

結局より依存していたのは主人公の方で、どちらかといえば叔父さんの方が彼女に支配されているのかも。
もちろん生い立ちの影響などがあるのだろうから、主人公も無意識にそうした状態を選んでいるのだろうけれども、叔父さんはいつのまにか彼女の世界のために必要な存在として仕立て上げられてしまったのかも、と。

ただ、デートにくっついてくる叔父さんを考えると叔父さんもやっぱ少しおかしいのかな……

共依存的関係の解消に失敗してそのパワーバランスがシーソーのように叔父から姪へと傾き、前よりも強固なものになってしまった。というだけの話なのかもしれないなぁ。

また時間が経って見直したらどんな感想になるのかわからない。そういう面白さがある映画だと思った。


その他気になった事。
冒頭いつになったら喋るのかなと思ったら「ヌテラ?」
最後の言葉も「ヌテラ?」

たぶんBGMが流れたのは真ん中あたりで一回だけ

コペンハーゲンにも回る寿司があるのか……
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