マインド亀

ラ・ジュテのマインド亀のレビュー・感想・評価

ラ・ジュテ(1962年製作の映画)
4.5
時を超えるタイム・トラベルの傑作

●アマゾンプライムにて、わずか28分の中編だったので鑑賞。このわずか28分が忘れられない記憶となる素晴らしい作品でした。
言わずもがな、「フォトロマン」と名付けられた形式の、スチール写真の連続とナレーションで見せる映画で、写真家でドキュメンタリー作家のクリス・マルケル監督の作品です。しかしながら内容は第三次世界大戦後のディストピアで、精神と肉体を過去や未来に時間旅行させると研究に主人公が参加させられるというなかなかのハードなSF。近未来から未来にかけてはSF的な美術は出てこないものの、両眼スコープや低周波治療器のようなものを両目に当てられたような微妙にチープで異型な小道具がなんだかかっこよくて、おそらく小道具も後年のSF作品に影響を与えたんだろうと思いました。
特にこの作品は『12モンキーズ』の原案になったり、そもそも今のタイムリープやタイム・トラベルものはほとんどは影響を受けてて、日本では押井守が映画を撮るきっかけになったらしいです。個人的には、タイム・トラベルをする時の具体的なカットが映し出されず、なんだか思い出を思い返すような感じで自然に過去に戻ったりするところに、アーティスティックでスマートな格好良さを感じます。おそらく静止画の連続だからこそできる演出なのでしょうが、これを多くの映画監督が動画でやろうと四苦八苦する姿が目に浮かびます。
ノーランの『インセプション』で、なんだかよくわからないけれど、具体的な仕組みをすっ飛ばして、しれっと他人の夢の世界に入って行くところが完全に『ラ・ジュテ』の影響なのかなあ、と思いました。

●ただの静止画の連続がここまで強烈な印象を与えるのは、とにかくどのカットも美しく新鮮で刺激的だからでしょう。
私は割とこの時代の写真も好きで、ブレッソンやエリオット・アーウィットなどのマグナムフォトの作品が特に好きなのですが、それらの、「瞬間」が永遠に残る奇跡的な絵画のような感じを、この映画はずっと連続で見せてくれます。
過去の世界では二度と戻らない一瞬一瞬の刹那的な美しさが、未来では逆に動きの少ない、死の匂いすら感じられる怖さが、一枚一枚の写真に強烈に焼き付けられています。だからこそただの写真の連続が退屈せず面白い。
もっと言えば、映画なんてそもそも静止画の連続でしかなく、それらをもっとも削ぎ落として、絵と絵の間に人間の想像を入れる余地がある方が面白い、とすら思えます。
そして一瞬だけ動画になるシーンがあるのですが、その動画も静止画的で、目の瞬きだけで強烈な印象を受けるのですが、それが主人公のもっとも帰りたかった時間だったんだと思わせてくれるのです。こちらへの視線にめちゃくちゃドキっとさせられます。

●とにかくこの映画には、あらゆる映画監督が呪縛となって追い続ける呪いのような魅力が詰まっていることがよく分かります。そして、この静止画の連続で映画を作れてしまうことがもうすでに70年以上前に実験的にわかってしまっているのがスゴイ。金字塔と言われる所以ですが、わずか28分で予算70万ほどのこの映画が私の映画体験にも鮮烈な印象を残しました。これは、絶対に見なきゃだめな作品ですね。観たことない方はアマプラで観られる貴重な機会に絶対に観たほうがいいです。ソフト買おうかなー!
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