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ファースト・カウのくりふのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.0
【ラストメン・スリーピング】

見たいと思える数少ない監督の新作…といっても、もう5年前の作品か。それゆえ感じる?まさに“牛歩”進行な部分もあるが、淡々と堪能しました。

西部劇は『ミークス・カットオフ』以来だが、男の中から女がヒーローとなる、アンチ西部劇が香るアチラから踏込み、男ばかりのコミュニティで、男らしさをあたたかに冷笑する。

ライカート監督は物語の前に、生活を描こうとしていますね。“食”が要の映画だから真っ当なやり方ですが、このアプローチがとても面白かった!いわば(B級)グルメ西部劇で、私はこんなん、見たことないです。

売れない料理人である主人公が、弱肉強食の開拓地ではとても生きられそうにないキャラなのがまた善き!かつての西部劇なら、せいぜいチョイ役でしょう。で、彼とバディとなるのが、ちょっと胡散臭い中国人。王道外れの2人に、この西部劇はフロントを歩かせる。

そしてフロントなのに、裏道みたいなセコい手で、成功を掴もうとするのですよね…男だから。監督は彼らを熱すぎず冷たすぎず、ライカート適温で刈り取っている。

“ファースト・カウ”って物語の柱、巧いなあ。原作の功績でしょうけど。ちなみにユーモアをもって、そこに女性“搾取”も込めたと見たが、そう言うと女性蔑視と取られちゃうカウ?

荒野が出てこず、ひたすら森と川だというのも、独特の匂いがする。映像に耽溺する監督ではないが、カジュアルな美しさはちゃんと切り取っている。例えば、川にはなにげに、ミレーのオフィーリアが沈んでいるように見えるもの。www

物語は、生活から寓話にジャンプして、ライカートな投げかけで終わる。自滅し埋もれた男らしさを、後から掘り返して悼んであげるのは、ちょっと母性なやさしさ、でしょうか。

女性の活躍は全く無く、登場するのは先住民女性ばかりですが、皆、いい顔をしていて見惚れました。リリー・グラッドストーンの使い方は勿体ない!と思ったけれど。

意地悪く受け取ると、結末はグリーナウェイの『ZOO』みたいでもあるなあ。www

<2024.1.6記>
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