クロスケ

ファースト・カウのクロスケのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.0
映画の冒頭、少年が森の中で寄り添うように横たわる白骨化した二つの遺体を発見する。それが一体誰のものであるのかという謎を残したまま、時間は一気に西部開拓期前夜まで遡って物語が始まる。

白骨遺体の正体が明らかになるラストシーンの後、クレジットが流れ始める前のほんの一瞬の闇に、冒頭のシーンに至る100余年の時間が垣間見えた気がして、暫しその深い余韻に浸るのでした。

時代設定や舞台設定が近いからなのでしょうが、ジャームッシュの『デッドマン』を思い出したのですが(ゲイリー・ファーマーも出てるし)、『デッドマン』と同じく、画面上を流れる河が印象的な映画です。

ファーストカットで河に浮かぶ貨物船がゆっくりと画面を横切っていくのを目にした瞬間、正直、胸騒ぎを覚えずにはおれませんでした。このケリー・ライカートという監督は、河を航行する船が極めて映画的な被写体であることをちゃんとわかっていて、こんなショットを撮影しているのだろうかと、その見事さとは裏腹に微かな不安がよぎったからです。

そんな私の心配を余所に、暫くすると、カメラは再び河の風景を捉えます。
緩やかに水面を滑るボートには一頭の牝牛が乗っています。森の木々の合間から差し込む陽光が褐色の毛皮を金色に輝かせています。

ほんの数秒足らずの何気ないショットでありながら、そこには驚くほどゆったりとした時間が流れています。そのことを知ってか知らずか、水の流れに身を委ねる牝牛の無垢な佇まいが美しい。
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