くりふ

ジャンゴ 繋がれざる者のくりふのレビュー・感想・評価

ジャンゴ 繋がれざる者(2012年製作の映画)
4.0
【拳銃仕掛けの黒神】

前作はそうでもなかったのですが、今回は全カットをいちいち面白く感じ、眺めているだけで楽しかった。

遊んでいるように見えて、しっかり表現として着地させるタラちゃんは、やっぱり映画に選ばれた男だな、と思う。

でも面白いけれど、残らんなあ(笑)。贅沢なエクスプロイテーション、という矛盾を味わう映画だろうか、今回は特に。

タラちゃんはどっちか言うと、登場人物への自己投影度って薄く、作品全体にまんま自分をぶちまける人だと思いますが、今回は、クリストフ・ヴァルツが快演するシュルツにけっこう、自身の想いを込めていると思う。黒人であるジャンゴよりも。

奴隷虐待の場を見たシュルツが、あからさまに心揺らぐ場面なんて、過去のタラキャラの中でも、何だかずいぶんピュアじゃんか。でも、あれは奴隷制度の実態を知ったタラちゃん自身じゃないかなと。

当時の奴隷は商品だから、法的には悪徳キャンディ一味が正しくて、どんな屈辱を与えられても、契約を持ち出されると呑まざるを得ない。だから、それを履行すれば丸く収まるけれど…

やっぱ、やっぱ許せん!と自身(シュルツ)の想いを叩きつける所が、本作のピークでしょう。

だから、その後のジャンゴの活躍はオマケぽくもご褒美的にも見える。スッキリしたからあとよろ!てこと? 脚本的には失速しますね。

窮地からの逆転後も、助けるべき大切な人らの扱いがえらく甘い…。いかにも拾われるため用意された、パンくずのように見えてしまった。偶然から雪崩れ込む銃撃戦と併せ居心地悪く、カタルシスに成り難い。

タラ本人の出演も今回は蛇足かと。あまりに身体、ゆとり過ぎ。先輩・同僚を見れば貧相で、儲かってないのは丸わかりなのに、タラだけいいもん食ってるようにしか見えない。これはシラケますね。

これら終盤追い込みでの息切れが残念。全般、とても面白かったのに。

パンフで越智道雄さん、ジャンゴを助けるデウス・エクス・マキナが2名登場、と良い意味で語ってますが、私はジャンゴ自身が終盤で、後始末するだけの「機械仕掛けの神」に墜ちちゃったように見えました。

どこか、彼を偶像化したがっているようにも感じるのですけどね。最後のオマケ映像で、同僚(笑)にわざわざあんなこと言わせているし。

西部劇は歴史の浅いアメリカにとっての神話だ、とも言われますが、ジークフリートに準えもするし、実はタラ神話をやりたかったのかな?ナチではヒトラーキャラで遊べたけれど、今回は手に余っている感じ。偶像化することでキレイにまとめたかったんじゃないかなあ。

役者さんでは、主役カップルには特に、感想ないです。ヴァルツの口八丁手八丁が今回もお見事。小柄な体が効いてますね。サミュエルおじさんの達者ぶりと、あの名台詞も健在で和めますねー。デカプーは相変わらず不思議。熱演するほど熱が冷めるように見える。でもさ、ゾーイ・ベルの顔はちゃんと見せて欲しかったなー。

一番笑ったのは、プレKKK団(レギュレイターズ)による「袋コント」。話が横ズレしてゆくオフビートは健在ですね。

でもウェスタンだけど、ガンファイトの醍醐味はあまりなく、演出もさほど巧くないと思う。銃撃より、弾着の肉壊に拘る辺りはバーホーベンを思い出しました。

総体的に、カタルシスよりはバラエティとして楽しむ作品でした。でもタラはまたもタラだった。いつまでもそのままの君でいてね。

<2013.4.22記>
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