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SKIN/スキンのambiorixのレビュー・感想・評価

SKIN/スキン(2019年製作の映画)
3.9
短編と続けて鑑賞。伏線の張り方や拾い方、皮肉きわまりないオチの付け方にいたるまでのすべてがウェルメイドな短編もアカデミー賞を取るだけあってさすがに素晴らしかったが、より心にズシンときたのはこっちの方。
筋金(とタトゥー)入りの白人至上主義者である主人公ブライオン率いる白人たちと黒人たちとが橋の上で対立する場面から本編が始まるんだけど、実はこの映画、短編とは違って白と黒の対立を扱った作品ではない。最近見た中でいうと、『あのこは貴族』なんかがわりと近いかもしれない。どちらも、「この環境の中で育った人間はこうあらねばならない」というコードを当たり前のように受け入れて育ってきた主人公が難儀しつつもそこからの脱出をはかるお話だった。
ブライオンが所属するレイシストの集団っていうのは、リーダーであるパパ・ママを筆頭にやたらとファミリー感を強調するが、実態はヤクザのよう(上納金とかも平気で巻き上げてくる)。ふたりは死産した自分たちの子供の代わりに擬似家族を作り、メンバーに対して歪んだ愛情を注いでいる。
そんな彼らがおもに憎むのは、黒人とイスラム教徒と同性愛者…いやさ、べつにターゲットなんか誰でもいいんだよね。そのことをいみじくも象徴するのが新入りのギャビン少年だ。「腹が減っていたから」とかいうしょうもない理由で集団に加わった彼は、もともと特定の種族や民族に恨みを持っていたわけではない。なのに、いざというときには何のためらいもなく残虐な行為を行ってしまう。というか最終的に仲間すら殺してしまう。思考を停止させ、自己の倫理観を集団の内部に譲り渡すことで人は誰でも殺戮マシーンになれるし、そこにはイデオロギーなんざカケラも見られない。目下の問題から目をそらし、コミュニティ内の団結力を強めるために、憎むべき共通の敵をでっち上げてるだけなんだよな。
ストーリーの早い段階で、ブライオンはシングルマザーのジュリーに一目ぼれ。彼女の娘たちともふれあい、徐々に心を開いていく。そして、ついには白人至上主義者の集団から距離を置いて真っ当に生きることを決意するのだが、レイシスト連中が裏切り者の存在を許すはずがなく、ブライオンの居場所を嗅ぎつけては執拗に追ってくる。このへんの描写は本当にえげつなくて、見ていてつらかった。恐ろしいことに、いまや彼らが憎むべき共通の敵は黒人でもイスラム教徒でも同性愛者でもない。同じ白人だ。
ラストは、ぎりぎりの瞬間まで主人公の顔を見せないニクい演出だったりとか、玄関先で主人公を迎え入れるのがダニエル・マクドナルド演じる奥さんだったりとか、短編を見た観客への目配せ的な要素が多いので、まさかこっちでもああなっちゃうのか!?と心配したのですが、救いのある終わり方でよかった…。
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