えみ

返校 言葉が消えた日のえみのネタバレレビュー・内容・結末

返校 言葉が消えた日(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

国民党独裁による白色テロ下の台湾を舞台に、夜の学校に閉じ込められた少年ウェイと少女ファンが、脱出しようとさまよう中で色々な怪異に遭いながら実際に起きたことを思い出していく、という話。元々ホラーゲームらしいけど確かにそれっぽい作りだと思った。
ウェイが主人公で、捕らえられて拷問にかけられている彼の悪夢の中という形。でも視点としてはファンから始まるし、両者の視点で描かれるから、ファンの話でもあるんだと思う。
実際に起きたこととしては、学校内に思想的な発禁本の読書会があり、ウェイはそれに所属している。会を主宰している男性教師チャンとファンは個人的な関係にある(完全な恋愛まではいかないように一線を引いているけど2人で会ったりはする)ファンの家は両親の夫婦仲が悪く、精神的にチャン先生に依存している。なおかつウェイはファンのことが気になっている(教師との関係は知らない)チャン先生とファンの関係を、一緒に読書会をやっている女性教師が諌めて距離をおかれたことから、ファンは女性教師を恨み、ウェイ利用して読書会を告発する。結果、メンバーは全員逮捕され、教師ふたりは死刑になり、ファンは自殺した。というのがだんだんわかっていく。
ファンもウェイも罪悪感を抱えていて(ファンはもちろんだけど、ウェイもファンに発禁本を渡すために利用した仲間に罪を着せているので、潔白ではない)その罪悪感の現れである怪異の表象が良い。めちゃくちゃ怖いわけではないけど気味悪い絵作りがうまいし、ふたりの立場に自然と感情移入できる展開になっている。最近大逆事件の舞台を観て、深編笠を被らされた死刑囚が行列するシーンが印象的だったんだけど、この作品もクライマックスで麻袋を被らされた人々が整列していて思い出した。最近思想統制とそれに抗う人々の作品を多く観ているけど、自由な社会はそれを求める人々の戦いによって獲得されたもので、我々は権力に対する監視の姿勢をかたときも失わずに、必要なときには声を上げていかなくてはならない、ということを再認識させられるな。最後、軍人に「忘れろ」と言われたファンが「忘れない!」と叫んでウェイを助けるのが、過去にあったことを忘れないという作品自体のメッセージと重なっていて刺さった。
ファン役の女優さん、初めて観た人だったけど雰囲気がめちゃくちゃよかった、竹久夢二の絵みたい。一歩間違えるとすごく勝手で利己的に見えてしまう役だと思うんだけど、密告に至るまでのどうしようもなさとか、若さゆえの不安定さとか、どことない悲しさがずっと漂っていて良い。最後、ひとり生き残ったウェイが数十年経ってから、チャン先生との約束を果たすために学校にやってくるんだけど、自白して生きることを選択した彼の人生についても考えてしまうし、先生からファンへの手紙の文面で泣いてしまった。
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