ミシンそば

罪と罰のミシンそばのレビュー・感想・評価

罪と罰(1983年製作の映画)
4.2
アキ・カウリスマキのデビュー作。
ドストエフスキーの原作を、現代のヘルシンキを舞台に翻案した作品だが、ロシア文学に一切興味がない身としては純粋にカウリスマキ作品として楽しんだ。
そして、DVDジャケから漂うハードボイルド感とは裏腹に、主人公ライヒカイネンの感情には面倒くさい熱量を感じもした。

(口では明確に否定してたが)恋人の復讐か、本人の弁の通り社会の仕組み的なものへの復讐か。
なんにせよ冒頭でライヒカイネンは実業家の男を殺し、その男の家に仕事で来たケータリング業者で働く女性エヴァに見つかり、ライヒカイネンは彼女を逃がす。
そこから、警察による「刑事コロンボ」みもちょっとある外堀埋めが開始し、ライヒカイネンはじわじわ追い詰められてゆくと言うのが話の筋だが、正直な話この一番古いアキ・カウリスマキ作品に、自分は却って“新しさ”を見つけた。

主人公とヒロインの繋がり方や、マッティ・ペロンパー(超前髪がウザい)、エスコ・ニッカリ(ペロンパーの次くらいにカウリスマキ作品でよく見かける髭の中年)の存在は後発作品にも通じるものが多いが、ライヒカイネンが自首を決意する際の流れは、正直言って最新作の「枯れ葉」を想起したね自分は(別に似てる展開、と言うわけでもないのに)。

最近、ヴェンダース作品でも、キャリア最初期の作品に最新作と“繋がり”を見つけたりもしたが、結局映画作家の“癖(へき)”と言うのは振り子運動のように決まった軌道で行ったり来たりするものなのかもしれない。
何にせよ、自首するまでの流れがあまりにも美し過ぎた。
これは確かに、恐るべき処女作だわい。