evergla00

オフィシャル・シークレットのevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

【正義感】

2003年のイラク侵攻のために、米英が企んだ工作活動を告発した英情報機関女性職員Katharine Gunの実話。

でっち上げた情報をもとに、大国が無理矢理戦争を始めようとしている…。

自身の憤りを静めるためと、それほど熟慮する様子もなく、案外サクッと告発。
しばらくして徐々に慌て始めるので、そんな程度の覚悟だったの?と、少々こちらも戸惑いましたが(^_^;)…、後先考えないこの無謀さが無ければ告発には至らなかったかも知れません。
彼女の本心は、匿名のままメディアを利用して世論の反戦ムードを一層高め、開戦を回避したかったのですが、告発そのものが問題視されます。

英国のThe Official Secrets Actは、1989年に公益目的の内部告発を守る項目が削除されました。(別の項目で、新聞社も法に触れていた可能性が。)

ほとぼりが冷めてから、実はこうでした、と言うのは簡単。しかしこれは現在進行形の国家機密。相手は国家権力。
得るものよりむしろ失うものの方がずっと大きいのに、常に己が正しいと信じることを選択していくKatharineの勇気と度胸は素晴らしいです。世界を軌道修正するきっかけは、彼女が示したような、小さくとも力強い正義感なのだと思いました。友人が励ますシーンにはホロリとしました。

組織の人間なら、組織の命令に従って仕事をすべき。
でもそれが、良心が咎めるような内容だったら…?
従っても従わなくても、何らかの「ルール違反」に該当してしまうというジレンマ。
日本でも命を絶ってしまった方がいました…。

違法かどうかという争点以外に特に気になったのは、戦争へと突き進む情勢を、対岸の火事だからと適当にやり過ごし、長い物には巻かれ、追求できる立場にありながら何も知ろうとせず、何も考えようとしないその他多くが取った選択です。子BushやBlairにとっても、所詮戦地は遠いよその国。自分の家が空爆を受ける訳ではないし、自分が最前線に送られる訳でもない。全体的にイラク国民の人権を随分軽視していると思いました。真実を知っていながら、放っておけ、関わるなというスタンスを取ることは、イジメを見て見ぬ振りするのと同じような感じです。3歳から16歳までの多感な時期を、1970年代から80年代の台湾で過ごした経験が、Katharineの稀有に高い当事者意識を育てたのでしょうか。

行動の選択肢を、確固たる善悪の基準、公平な視点に毎回照らし合わせること、そしてその努力を各自が地道に積み重ねていくことで、より良い世界は築き上げられるのだと思いました。

中央で分けて真横にバッサリと切った髪型は、曲がったことが許せないKatharineの性格を表しているようでしたが、意外にも実際のご本人はふんわりとしたブロンドで柔らかそうな印象でした。
裁判後は結局、語学講師として大学に短期間勤めた以外には職が見付からなくて、夫の母国トルコに住んでいるようですね…。
それでも告発を後悔したことはなく、戦争を止められなかったことだけが悔しいそうです。

政府は国(益)と国民を守るべきですが、政府組織自体を都合良く守るための法律や規則だと、国民にとって不利になる場合が出てきます。政府内だけが、税金と「国益」で潤っていく構図はかなり恐ろしいです…。

冒頭は、えらく難解な映画を選んでしまったかなと不安になりましたが、政治について考えるにはとても良い作品でした。

“..... censorship when called for should be based on security issues alone not on whether a news report might embarrass a government.”

あらゆる政治的スキャンダルに言えることです。事件解明は、国家安全を脅かさない!

“Governments change. I work for the British people. I do not gather intelligence so that the government can lie to the British people.”

***

記者のMartin Bright;
“..... cinema can do something that newspapers can’t do.”
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