SatoshiFujiwara

停止のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

停止(2019年製作の映画)
3.7
TIFF2019

ラヴ・ディアスが特段好きな訳でもないが、昨年TIFFでの『悪魔の季節』もやはりまだ一般公開されてないし、逃すと観れるのはかなり先だろうと何となくチケット取ったら上映時間283分と聞いて腰を抜かしました。ラヴ・ディアスの中で最長じゃねえか。→と書いた後に他の作品のデータを見たら10時間とかあった。恐ろしい。でもリヴェットの『アウト・ワン』よりは短いんすよね。ちなみに一般的な劇映画ではないがクリスチャン・マークレーの『ザ・クロック』の上映時間は24時間です(笑)。

それはさておき、これは2034年のフィリピンが舞台ということだがもうほぼ今の世界情勢をさらにタチ悪くカリカチュアライズした代物で、とは言えそのナラティヴは緊密に物語を構成するというよりは多様な細部が全体にそれとなく寄与するような拡散型であり、そのためにはこのアホみたいな上映時間も必然であったのかとも思う。イカれた独裁者の話ではあるが骨子らしい骨子はないし、単純な主題に還元して観る映画ではない、という印象。最後、イカれた独裁者の大統領は殺されてしまうが(その殺され方がいかにもシニカルだし、その情報の伝わり方もまたドライの極み)、これによる軍部による暫定政権はこのまま軍事国家への道を突き進むような予感があるし、独裁者が死んでめでたしめでたし、なんてとんでもない。それにしても多層的な余韻を残すあの映画の終わらせ方ね。

モノクロの撮影、これが異様に美しいが、それがこのグロテスクな話を巧みに突き放しているし(かなりの画面がパンフォーカスで撮られているのも現実感が巧みに濾過される)、年がら年中降る雨もいかにも「映画で降らせる雨」という質感と音で心地よい。画面奥で明確に雨を降らせておらず地面が乾いているところがはっきり画面に映っているが、要はラヴ・ディアスはそんなことはどーでもよいのだ。

かつてのイケてるバンドのヴォーカルという設定の兄ちゃんが歌が下手くそのなんちゃってベーシスト、バンド自体(そのバンドではないようだが)もイモ臭くてダサいのがいかにもラヴ・ディアス的な感じで微笑ましく思いました(笑)。
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