りっく

リチャード・ジュエルのりっくのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.5
本作はリチャードジュエルの複雑なキャラクター造形と、それを終始見つめ続ける一貫した視点の勝利だろう。英雄からマスコミや政府の力によって容疑者扱いされる悲劇の男として戸惑い憤慨する展開は、イーストウッドの傑作「父親たちの星条旗」を反転させたようなにも見え面白い。

その一方で、本作が一筋縄でいかないのは、そんな状況になったからこそ、同じ法執行官として憧れのFBIと会話できると有頂天になり、ついつい要らんことを言ってしまう。ミシュランマンと言われ侮辱されてきた丸々と太った身体は、彼の肥大化した自己承認欲や自己顕示欲にも見えてくる。

法のもとで、正義のもとで働くことを夢見てきた男。だからこそ、容疑者として報道されても、彼は頑なに正義を信じる。だが、本作は正義は一色ではなくカラフルであり、そして自分の好きな色に塗り替えられる可能性があることに警鐘を鳴らす。イーストウッド作品に通底するテーマであり、権力側から見た「Jエドガー」と対をなしているように感じる。

自慢の息子に疑いの目をかけられ、プライバシーを侵害された母親の涙の訴え。言うことを聞かない彼をなだめ、マスコミやFBIの汚い手を跳ね除け、正しき方向へと導こうとする弁護士との友情。周囲によって自分が夢見てきた人間達と対峙し、頑なに信じてきた「正義」によってぐうの音も言わせないクライマックスは、派手さは全くないものの、ポールウォルターハウザーの顔つきと口調、退出する勝者を追うカメラワーク、そのどれもが一流の仕事で、観る者の胸を熱くさせる。
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