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リチャード・ジュエルのsomaddesignのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
5.0
俺はサム・ロックウェルが幸せそうだと満足するらしい

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近年すっかり実録モノの巨匠の感があるイーストウッド。もともとはポール・グリーングラス監督でディカプリオとジョナ・ヒルの主演/制作で進んでたそう。だがしかーし!2019年4月に二人の降板が決まると、イーストウッドに白羽の矢が立って態勢を立て直し、6月から撮影開始して12月には公開…って早撮りに定評のある監督とはいえ、どんだけ早いんだ!(アカデミー賞レースに間に合わせたかったのと、オリンピックイヤー前にどしても公開したかったのかしら?)

鑑賞前にうっかり実在のリチャード・ジュエルの生涯をwikiってしまったので、結末知った状態で見ちゃった。
や、96年の出来事だしアメリカの観客の多くは顛末を知って観てるわけだから、リチャードが真犯人かどうか等云々は関係なくて、公権力に個人が地獄に落とされるサスペンスとして観るにはむしろ良かった。ついでに近年当たり前のように行われてる「プロファイリング捜査」の危うさ👉決めつけ捜査に陥りやすい脆さも透けて見えた。

無差別テロ⇨杜撰な捜査⇨メディアリンチの構図って、ちょうど94年の松本サリン事件を連想してしまった。あれも同じく第一通報者の男性を被疑者不詳のまま強引な捜査を進めた上、先走った報道機関が容疑者と決めつけてメディアリンチ。毒ガスの専門家とされる人がテレビで「容易に手に入る農薬とバケツひとつあれば生成でき得る」と言い出したもんで、全くの無実の人が吊し上げられる結果に。

劇中ワトソンの「権力は人をモンスターにする」は、物語全体を俯瞰するようなセリフで、知らず知らずにモンスター化してしまうペンと剣の権力への警鐘だし、権力を監視する権力は誰が監視するのか?っていう問いかけのようのでもあった。「who will watch the watchmen?」

原作は「プライベート・ウォー」で知られるマリー・ブレナー。97年に雑誌「ヴァニティ・フェア」に寄稿した「American Nightmare: The Ballad of Richard Jewell」。
実際のリチャード・ジュエルの画像を調べたら、ポール・ウォルター・ハウザー激似。実物はもう少し賢そうだけど、雰囲気はそのまま完コピ。
みんな大好きサム・ロックウェルが今作でも最高。過去最高にしょぼくれた男だけど、親身にリチャードに寄り添い力になろうとする姿が熱い。不器用なくらい実直で融通がきかない辺りリチャードと共通する人物として描かれてるのも良かった。声なき者の声を代弁する役で、終始穏やかなリチャードと怒り狂うワトソンの対比もいい。

一方で、キャシー・ベイツのボビはオロオロするか泣いてるばかりで、名優の使い方としては役不足っちゅーか、もったいなく感じた。
あと記念撮影してた黒人の母娘。事件解決に向けて後半活躍がある、重要な目撃者か撮った写真にたまたま重大な秘密が写ってるかと思いきや、力一杯物語から消えてしまってなんだったのか?
杜撰な捜査以上に、簡単な検証すらせずに興味本位で個人を吊し上げる報道機関の無能っぷりも酷かった。

(炎上)
実在の女性記者:キャシー・スクラッグス(オリヴィア・ワイルド)は2001年に若くして亡くなっており、劇中その描かれ方が事実と異なる上に、ステレオタイプな女性記者すぎて故人を冒涜するばかりか、性差別的だし誤解を助長してるとして大炎上。
女性は男性記者に比べて取材力が劣るために、しばしば性的魅力を利用しスクープのためには何でも利用する…というステレオタイプに基づく偏見は確かにあって、今時アウトかもなあと思った。
何より事実じゃないエピソードだし、本作が警鐘を鳴らしたハズのメディア権力の横暴や、誤報誤解の流布に寄与しちゃってるのが皮肉だと思った。

12本目
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