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夏時間のkoheiのレビュー・感想・評価

夏時間(2019年製作の映画)
4.9
なんなんだろう、この手触り。心地のよさというか。なにげない時間を切りとった映像に、もっとなんてことない自分の過去の記憶が呼びおこされる感じ。たとえば、主人公の少女が寝ていると下から喧嘩の声が聞こえてきて目を覚ますという場面がある。たとえば、少女の弟が姉のことを「お前」って呼んで、すかさずキレられてしまう場面がある。こう書き出してみるとなんかうまくいかないのだけど、それこそがすごいというか、映像でしかできない表現を、とても軽くやってのけてしまっているように見えるのがすごい。『わたしたち』や『はちどり』、そして本作など近ごろの韓国映画には子ども(とくに少女)を映しとった傑作が多く、そこに台湾映画以上に是枝裕和の影響を強く感じずにはいられないのだけど、その作風は是枝の後を追っている感じではまったくなく、簡単に肩を並べてしまえる独自の風体をしているからすごい。『夏時間』に関しては、たぶんカメラの置き場所と編集がめちゃくちゃうまいんだろうな。いらないかもしれないけど余白を生むには必要な描写がちゃんとあって、ほんとうの意味でまったくむだがない。これが初長編映画というのは信じられない出来事だ。ユン・ガウン、キム・ボラ、ユン・ダンビ。いつまでも彼女たちが自由に好きな映画を撮れる世界であってほしい。

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2021.3.7 ユーロスペース

2度目を観て考えがまとまった部分があったので詳しく書きました。「情けなさ」について。
https://bsk00kw20-kohei.hatenablog.com/entry/2021/03/07/173854
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