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ラーヤと龍の王国の都部のレビュー・感想・評価

ラーヤと龍の王国(2020年製作の映画)
3.1
本作は東南アジア伝統文化の影響を元に形作られた作品で、異なる文化圏の人間に対する不信から来る分断の危険性とその境界を融和に導く普遍的な信頼の重要性を軸に据えながら、殺伐百合ったり異種百合ったりとその構成要素は盛り沢山であるのだが、しかし結果として没個性に感じる角の取れた振る舞いが目立つ作品性を図らずも獲得している。

昨今の潮流である女性のエンパワーメント性の象徴とも言えるラーヤの人物設計は卑近でありながら高潔な存在としての説得力に足るもので、作品内で扱われる情緒的な感傷に関しては月並みであるがアクションシーン/シーケンスにおける語り部としては申し分ない。彼女と志を同じとしながらも対立するナマーリや相棒役を務める龍:シスーとの関係のケミストリーは充分なもので、ともすれば残酷で陰惨な世界設定を万人向けに呑み込みやすいものとしている要因はこれらの妙が挙げられるだろう。前述した東南アジアを感じ入る映像美による風景の数々は画として強く、その連なりによる世界観の構築にも不服は無い。

しかしそうした用意された材料に対して調理が率直すぎることが仇となっている部分は否めず、ラーヤを除く登場人物が類型的な役を演じている点は否定できない。世界観に隷属するような物語には拡張性がなく、その脚色に欠ける王道さがそのまま味気なさとして感じられるという所感が大いにあった。人間間の分断と調和を命題とするには駆け足な語りであるし、これによる物語としての素っ気なさ/淀みなさが命題の重々しさを削ぎ落としている。感動を呼ぶはずのラストシーンも国家間の繋がりを描けているとは言い難い本編を鑑みると会議的な心境の残る構図で、一個人同士の理解を国家同士の構図に単純化して当て嵌めるほど安易な問題ではないからこそ、引っ掛かりを覚えるまとめ方だった。
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