あんず

戦争と女の顔のあんずのレビュー・感想・評価

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
3.8
昨年、NHKのあさイチで漫画版『戦争は女の顔をしていない』が紹介され、女性の視点で戦争が描かれている所が気になって本屋へ買いに行った。原作のベストセラーを原案にしている本作は何としても観たいと思っていたのに劇場とは都合が合わず。思っていた以上に早くWOWOWで放送され、嬉しかったが……

ものすごく怖かった。漫画は戦闘シーンや悲惨な場面も出て来るが、どこか乙女チックだったり、戦時中でも希望を見出だすシーンがあった。一方、この映画は戦後のレニングラードの話で、戦闘シーンは出て来ないし、戦時中のことを語る場面もほとんどないのに、ただならぬ狂気を感じて恐ろしかった。マーシャがグリーンのフェミニンなワンピースを着てクルクル回り続けるシーン、子作りのシーンは象徴的だった。みんなどこかおかしい。でも、それは「全部戦争のせい」。

人物がカメラや相手に背を向けたり、何を考えているか分からない表情のシーンが多かった。あと妙に会話に間が多く、口数が少なかった。それは、戦争を振り返らないとか本心を人に知られたくないとか感情を露にするのが怖いとかいうことの表現なのかなと思った。

怒りを通り越した悲しみ、悲しみを通り越した諦め、諦めの中でも生きて行くために何とか持とうとする希望。その希望を否定する権利はないけれど、トラウマを抱えている中での発想はやはり歪だ。この負の遺産は何世代経てば癒されるんだろうか。そしてまた今、新たな犠牲者たちが日々生まれていると思うと、もう何と言って良いか分からない。
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