バイオレンス全開ジャパニーズノワールというよりは『レオン』『アジョシ』などを連想するアウトロー×孤独少女によるヒューマンドラマ。しかしそこはインディー邦画らしくエモーショナルな展開は削ぎ落とされ、心情描写は最低限となっている。
これこそがまさに作品の個性であり、キャラクターたちの過去や心情であったりメイン2人が心を通わせる経緯は雄弁に語られない。だからこそ、人物造形の補完を託された観客の想像力にはそれぞれが思う辰巳や葵の人生が構成され、彼らへの憐憫が何倍にも膨らむ。
まさに映画的とも言える語り口を地でいっており、こんな上質なインディペンデント作品を見つけたときは嬉しくなるのも確かに納得で、上映当時かなり盛り上がっていた理由がよくわかった。
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余白が多い脚本となると俳優陣への負荷が大きくなりそうなところ、そんなのものともせずといった感じでキャスト全員がとにかく良すぎる。
森田想さんも相当すごかったが、個人的には辰巳を演じた遠藤雄弥さんの衝撃が強かった。いつものイメージと異なりギラつきまくっていることにまずもって驚いたが、そこに『の方へ流れる』『ONODA』なんかで発揮していた湿り気のある雰囲気をドッキングさせることで独特の色気が漂っており、もはや辰巳というキャラは遠藤さん以外できなかったんじゃないかと思ってしまうほど。
もちろんこれがほぼ映画デビューというのが驚きの倉本朋幸さんや、どんなコワモテでも相変わらずチャーミングを隠しきれない後藤剛範さんも最高。「俳優選びに妥協したくない」という理由で自主制作を選択した小路監督の心意気と審美眼の勝利ですよね。
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当初、終盤で辰巳と葵がキスするシーンが存在していたらしいが自分のキャラ解釈のなかでどうにも腑に落ちなかった森田想さんが意見し、受け入れた監督がその場面をカットしたというエピソードがあるらしい。
若くして役柄と向かい合う俳優としての矜持を持ち合わせる森田さんはもちろん、それを素直に受け入れるというかそもそもそんな発言を促せる雰囲気づくりができている小路監督の度量がうかがえる素敵な逸話だった。