終戦後のハンガリー。ホロコーストを生き残った42歳の医師と16歳の少女による親子の様な、そして時に恋人同士の様な関係を描いた人間ドラマ。
世界に取り残された様に孤独に生きるしかなかった男と、世界に怒りをぶつける様に生きるしかなかった少女。
似た境遇のふたりがお互いに寄り添いながら、静かに少しずつ生きる希望を取り戻していく。
ふたりのゆるやかで確かな変化をさりげなくも丁寧で繊細に捉えた演出と演技が随所で光る傑作。
その危うさもはらむ関係性にハラハラするものの、しっかりそこにはリアリティがある誠実な語り口。
パンフレットによるとこの描き方は原作に無いものということだけれど、映画的にはよりサスペンスフルに豊かな語り口になって奏功している脚色だと思った。
アルドを演じたカーロイ・ハイデュクも、クララを演じたアビゲール・セーケも歴史や時間の経過と人物の変化を見事に体現した名演とか言いようが無い演技。
(短期間撮影で順撮りではない、というのが俄かに信じられない!)
スターリンの台頭と失脚、そしてその後の混乱を漂わせ、甘さと苦さを同時に残しながら解釈を観客に委ねる終幕が素晴らしい。
映画でしか味わえない豊かな情感に落涙。