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セノーテのsukeのレビュー・感想・評価

セノーテ(2019年製作の映画)
4.5
すごいトリップ体験ができる映画だった。
闇と光と水、人と自然とカメラが作り出す映像と音のおもしろさ、美しさ、怖さ。前後不覚、重力さえ感じさせない水中が宇宙のように感じられたかと思うと、水中の気泡が上へあがり、水面から空を見上げると水滴が下に落ちて、しかしまたカメラや水にぶつかって上へあがる。輪郭がぼやけ、水とも気泡ともつかないように感じられる映像と音に、セノーテの中で、自分の居場所がどこか遠い宇宙のように感じられる。

酩酊したような、トリップしちゃったような、アピチャッポンの映画を観た時のような、作者がスピリチュアルな体験をしたんじゃないか、薬でもやったんじゃないかと思うような感覚の共有体験。比較的わかりやすく示されたストーリーの誘導から、彼岸と此岸の狭間、時間と空間を超越したどこか、肉体から遠く離れた記録と記憶、歴史や神話の精神世界に飛ばされる。
子供の声、8ミリカメラが写す記憶の断片。家族や生活、トライブの歴史。自然の脅威。ホエザル?の声が恐ろしい。魅力的、蠱惑的、でも切ないモチーフ。
ラストカット、ようやく水の中から出られたと思い鳥とセノーテを見つめる映像は、8ミリカメラで撮られていた気がする。肉体はセノーテに置き去りにされ、もはやその映画体験をした前の自分とは異なる自分が、記憶や精神の世界にとらわれたまま現世に戻ってきたような感覚に陥った。
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