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グリプスホルム城のzoeのレビュー・感想・評価

グリプスホルム城(2000年製作の映画)
3.7
Filmmarksでの評価は低めだったのであまり期待はせずに雰囲気だけでも楽しもうと鑑賞しましたが、個人的には予想以上に良かったです。

本作はドイツのユダヤ系風刺作家であるクルト・トゥホルスキーの自伝的恋愛小説「グリプスホルム城」に基づいた作品で、1931年の夏、ドイツの体制批判をしていた風刺作家でジャーナリストでもあるクルトはナチスの迫害から逃れるために恋人のリディアと共にスウェーデンに脱出する。しかし、リディアはその事実を知らず、5週間後にはドイツに戻ってくるものだと思っていた…というお話です。

作家がナチスに迫害されるというのは以前鑑賞した『ヒトラーに盗られたうさぎ』で知り得ていたのでラッキーでした。劇中にはその時代の情勢、背景についての説明がないので鑑賞前にある程度情報を入れておいたほうが理解しやすいように思います。

少ない登場人物が、その時代にドイツで生きる人たちを表していました。クルトとカールは共にドイツの愛国者でありながら作家と空軍のパイロットとして、それぞれ違う葛藤を抱いているからこそぶつかってしまったり、作家や芸術家が多く迫害を受けていた時代でクルトの友人で歌手のビリーも彼と同じく自分の身を案じていますが、彼女は「海外では無名だけどベルリンではスターよ」とドイツに残る意志を固めていたりと、同じ境遇にいながらも職や考えが異なれば行く先も異なるということを分かりやすく描いていたのではないかなと思います。

また、寄宿学校の生徒であるアダを取り巻く環境やそこから逃げ出そうとする様子はナチスの迫害からどうにか逃れようとするクルトとの姿と重ねられていました。

ナチスによる迫害という歴史の酷な部分をテーマにした作品であるものの、直接的なシーンはありません。せいぜいヒトラーの顔が印刷されたチラシが登場するくらい。

劇中にあった「俺が提案した恋愛物はどうだ?恋人の贈り物として買える本にしよう」という編集長の言葉がクルトの頭の片隅に残っていたおかげでこの作品が出来上がったのかな~なんて思います。

耽美的かつ官能的で、ムードのある映像でした。クルトとリディア、そしてビリーの3人でのセックスシーンなんかは特に美しいです。リディアやビリーのファッションも見所のひとつ。
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