じい

すばらしき世界のじいのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

西川監督の作品に出てくる人物には完全な悪人も完全な善人もいない。主要人物も詐欺師だったり嘘つきだったりそこまでいかなくても小狡かったり卑怯者だったり。

この作品でも、服部君がアベ君を叱責するのはそれなりの理由もあるし(侮蔑的なものまねをするところは胸くそ悪いし人として論外だけど)、スーパーの店長のまつもとさんが三上さんの言動にちょっと怯えを見せる所や、身元引受人の庄司さん夫婦も自らの私生活を犠牲にしてまで三上さんに尽くしたりはしない。
津乃田君に至っては我々観客の代弁者の如く常に三上さん好き、頑張れと、え、この人大丈夫?を行ったり来たり。手放しで三上さんを受容するわけではない。

でも、だからこそこの物語は信頼できる。
そんな普通の良いところも欠けたところもある人達が時に集まり時に距離をおき、それでも心を通わせ、素晴らしき世界であり、素晴らしくない世界でもあるそんな世界でそれぞれの人生を生きていく。

そしてそんな物語だからこそ三上さんには生きていて欲しかった。

あそこで普通の人として生きていく為に迎合してしまった三上さんがどのような後悔や後ろめたさを抱いて最後にコスモスを見つめたか、思い出すだけで胸が痛くなる。
そういうこともあるんだよ、社会で一見真っ当に生きているように見えている人達だってそういう保身の為の裏切りや卑怯さで汚れにまみれながら、時に誰かを傷つけながらなんとか生きてるんだよ、と言ってあげたい。

タイトルには皮肉がこめられているという意見、
いや、それでも素晴らしき世界であるという肯定だとの意見、私にはまだ答えは出ていない。


サッカーで少年を抱きしめる三上さん、
アベ君の鼻水を手のひらで拭いてあげる三上さん、本当は三上さんが自分でして欲しかったことなんだと思う。
本当に哀しい、美しいシーンだった。
あと、ほんの小さな場面だったが中洲?のソープ嬢の桜木梨奈さん、母性と清潔感、寂しさ悲しさの表現が素晴らしかった。

書ききれないほど心打たれた場面はあった。
役所広司さんはじめ、この作品の演者さん、皆さん本当に素晴らしかった。


でもやっぱりこの作品は西川監督の作品なのだと感じた。
全ての要素がまとまって一つの作品として成立していた優れた一本だった。
じい

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