Violet

すばらしき世界のVioletのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「私たちはもっと適当に生きてるのよ」
弁護士先生の奥さんの言葉に大きく納得した。
私たちは毎日一生懸命生きている。
勉強して、働いて、汗水垂らして生きている。
けれど、たくさんのことを見過ごしている。
自分と自分の手の届く範囲のことで精一杯。
損得を考え、損となる可能性があるならばすっと目を逸らす。
そんなマジョリティとはかけ離れた存在、それが三上だ。

三上の描き方がまた上手い。
免許更新で行進したり、試験番号を叫んだりする姿には思わず笑ってしまった。
同監督作品の『永い言い訳』でも感じたことだが、西川監督は観るものが愛着を持ってしまうような登場人物を描くのがとても上手い。
本作でも、気づいたら私は三上の虜になっていた。

「三上さん、コスモス、持って帰る?嵐の前に摘んでおいたんだ。」
障害者の同僚からこう問いかけられた時の三上の表情が忘れられない。

三上はどう感じていたのだろうか。
広い広い空に映し出された『すばらしき世界』というタイトルは、鑑賞者への問いかけなのだと思う。

あなたはこの世界を、どう思いますか?

▼『すばらしき世界』というタイトル
わたしは、このタイトルがまるまる皮肉を意味しているわけではないと捉えている。
現に三上の周囲には津野田や弁護士先生やスーパーの店長や昔のヤクザ仲間や、三上を大切に思う人々がたくさんいた。
自分にとって大切な人がいる。
それだけでこの世界は、すばらしいのだ。本当に。
きっと明日地球が滅亡すると言われたら、ほとんどの人々がもっとこの世界で生きていきたいと願うはずだ。

ただ、いや待てよと。全てをひっくるめてこの世界を「すばらしい」と表現するには、違和感があるのだ。
自分たちに関係のないことは見ないふりをして、何事もなかったかのように日々の生活を送る。見ないふりをしたことさえも当たり前すぎて忘れてしまっている私たち。
そんな私には、三上の姿がとても眩しかった(でも暴力はダメ)。優しくあまりにも真っ直ぐな三上には、この世界は生きにくかっただろうと。
そして、そんな優しい人が生きにくい世界というのは、本当に「すばらしい」のだろうかと。
社会のあり方を訴え、個々人に考えることを求める、秀悦なタイトルだ。

▼犯罪者への現代社会の対応について
わたしはどんなことがあってもやはり人を傷つけたり、ましてや殺めたりすることを容認できない。
だから、「犯罪者のために社会を変えよう」という考えにはなれない。
殺人を犯し牢に入れられた人間は、牢獄を出てからがスタートなのだ。社会に自分を受け入れてくれる人が全くいないことを悟り、自分の罪の重さを知り、頑張って頑張って頑張った上で誰かに認められる。そこで初めて、本当の意味で罪人という肩書きから解き放たれるのではないだろうか。

もちろん、この社会におかしなルールは多い。
例えば、出所者への支援として免許等の取得には補助金が出るというルールがあるにもかかわらず、劇中では自動車免許は値段が高いからという理由で補助金がもらえていなかったり、社会復帰するための道がことごとく塞がれてしまっていたり。
こうした人権にかかわる問題を解決しつつ、でも決して被害者やその家族の無念の気持ちを推し量ることを忘れてはいけないと思う。
Violet

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