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すばらしき世界のuncoloredsheepのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
刑期を満了した情に熱い男が現代社会に何とか溶け込もうとする姿がドキュメンタリーかのように描かれていてリアリティがすごかった

やはり、今同時公開されている「ヤクザと家族」とストーリーを並べて考えてしまうのはどうしようもないと思う

「ヤクザと家族」では現代に生きるヤクザだった男が上手く生きられず綺麗事では終わらせない辛さや葛藤に終始しているのに対して、「素晴らしき世界」はそれでも何とか社会に溶け込もうとする男のストーリーを描いているかのように感じた

どちらの映画でも一貫して現代では社会のレールから外れた人間が更生するのは容易いことではなくまたヤクザの世界に戻ってしまうマインドになってしまうのは、その人本人が根っからの悪だからではなく、心の拠り所をまたそこに求めてしまうのだとしみじみと考えさせられた

そして、真っ当に生きられているのは幼少期からの恵まれた環境であって、自分ではどうしようもない幼少期は本人に絶大な影響を与えるのだと学ばされた

本人の性格や人間性も影響はするが生きてきた環境というものは人に社会のレールから外れやすくさせるかさせないかかなりの権限を担っている

「素晴らしき世界」の中では主人公に親身に寄り添ってくれる仲間がたくさんいた

だから彼は彼の性格さえもねじ伏せ親身に寄り添ってくれた者のために極道の世界ではなく、真っ当な世界で生きようと変わっていったのだろう

その心理変化を上手く移していた構成には驚かされた

だが、その心理変化よりも1番胸に来たのは犯罪を犯していない我々が弱者を袋叩きにしているとき、主人公は彼の性格をねじ伏せ、おかしいと思うことをねじ伏せ、社会に順応するために意見を曲げ無理やり笑顔を作っていたシーン

このシーンはこの映画が持つ大きなメッセージ性のあるシーンだと思う
犯罪者や社会不適合を袋叩きにして、まともに生きていると考えている人達、それが嫌というほど強調されて映し出されていた

このシーンは主人公の目でしか感じる事が出来ず、真っ当な世界って何だろう?と思わされた

正解の世界、素晴らしき世界、それは果たして何だろうか

情に熱く人思いなのが行き過ぎるとレールから外れてしまう
それなら間違った世界でも協調しながら生きるべきなのか
本当に考えされられた

役所さんが各所で散りばめている悲しげな絶妙な表情は圧巻だった
さすがとしか言いようがない、素晴らしき俳優だ

そして、悲しいラストにはこの映画が通して訴えてきたものが凝縮されているかのように感じられて、ただ更生していく過程を単調に描いているのではなく、最後までメッセージが胸に突き刺さりなんとも言えない余韻に浸ってしまった

素晴らしき世界、誰もが幸せな世界があるのならば行ってみたいものだ
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